ヴァインベルク/交響曲第3番
バレエ「黄金の鍵」第4組曲

(スヴェトルンド指揮 エーテボリ交響楽団)



Amazon.co.jp : Symphony No. 3/Suite No. 4 from 'the Golden Key'

Tower@jp :Weinberg: Symphony No.3, Suite No.4 from "The Golden Key"


1948年のことじゃ。
いまはもう存在しないソビエト社会主義共和国連邦という国でソビエト音楽家会議が開かれた。
そこで中央委員会書記・アンドレイ・アレクサンドロヴィチ・ジダーノフというエライ人が演説を行った。


 「革命国家ソビエトの音楽は誰にでも理解できてわかりやすく、かつ大衆を喜ばせ勇気づけるものでなくてはならんっ!
 わけのわからんコムツカシイ音楽や、聴いて落ち込む暗い音楽を作る作曲家は国家の敵だっ!
 というか反逆者だっ! いや資本主義者の手先に違いない!
 とくにショスタコーヴィチとその子分ども!
 おまいらミョウチキリンな曲ばかり作りやがってからに!
 自己批判しろ! 「私が間違ってました」と言え!
 でないとハサミでちょんぎるぞ! シベリア送りだぞ! 死刑だぞ!! 銃殺だぞ!!!」 


これが悪名高い「ジダーノフ批判」
ほかにもプロコフィエフ、カバレフスキー、ミャスコフスキー、ハチャトゥリアンなどが批判されたが、
とりわけショスタコーヴィチへの風当たりが強かったそうな。
要はソビエト随一の天才作曲家でありながら「スターリン万歳!」「共産党サイコー!」という態度を示さないので、
スターリンに睨まれてしまったというのがホントのところ。

「ジダーノフ批判」のあと、ショスタコーヴィチと彼の弟子たちの曲は、ほとんど演奏されなくなった。
それどころか、いつ国家反逆罪で逮捕されるかもわからない状態。
ショスタコーヴィチは大慌てで、ソ連の植林政策をたたえるオラトリオ「森の歌」を作曲した。

 「共産主義の輝きを見よ! 真実と明るい未来は我らとともにある。
  レーニンの党に栄光あれ! 人民に栄光あれ! 賢明なる党に栄光あれ!」


という歌詞で派手に盛り上げたらこれが大受け、スターリン大喜び、なんとか首がつながったそうな
(ショスタコーヴィチ自身はこの曲を作ったことを「生涯の汚点」と思っていたとか)。


さて、彼の弟子・・・というより年若い親友で、
モイセイ・ヴァインベルク(ミェチスワフ・ヴァインベルク)(1919〜1996)という作曲家がおった。
ならばおいらもひとつ明るくほがらかな曲でも書くべ、と作ったのがこの交響曲第3番(1949〜50、1959改訂)。
このたび世界初録音とあいなった、めでたいことじゃ。

ふーむ、確かにサワヤカでホガラカ、おそらく彼の交響曲の中で最も明るいのではなかろうか。
第1楽章は眼前に穏やかな田園風景が広がるような自由なソナタ形式。

 

第2楽章スケルツォは、草原で民族衣装を着た人々が踊っているような楽しげな楽章。

 

第3楽章アダージョではメランコリックでロマンティックな哀愁が薫る。

 

そして第4楽章フィナーレは金管の勇壮なファンファーレで幕を開ける勝利の凱歌! イケイケッ!!

 

ショスタコーヴィチをさらに人懐こくしたような音楽がストレートにグイグイ迫って来るじゃろう。
じつにわかりやすく、聴きやすい。
美しいメロディをふんだんに投入、オーケストレーションも巧みで、メリハリや響きの変化にも不足せず、聴く者を飽きさせない手腕、まさに天才の仕事。

これなら文句ないだろうと初演の準備を進めたものの、結局、演奏してもらえんかったそうな
当局から睨まれてる作曲家の曲などうっかり演奏したら、「おまえも仲間か!」と言われかねんからのう・・・。くわばらくわばら。
合唱でも加えて、「偉大なるスターリンに栄光あれ!」と歌わせていればまた違ったかも知れんが、そこまではプライドが許さなかったのか。

もともとヴァインベルクはポーランド生まれのユダヤ人。
第二次大戦中に家族全員ナチスに虐殺され、命からがらソ連に逃げてきた気の毒な人なんじゃ。
ところがスターリンもユダヤ人嫌いだったからさあ困った。
その後もさまざまな嫌がらせを受け、ついに1953年には国家反逆罪で逮捕!
「ああ、ついに死刑かシベリア送りか・・・」 と思ったらスターリンが急死
あっさり釈放されたというから、ある意味運が強い人じゃ。
しかし生きた心地しなかったじゃろうな・・・。

そういった背景を考えながら聴くと、この明朗快活な交響曲も、なにやら痛々しく物悲しいものに思えてくる(1960年に改訂のうえ初演)。
しかし純粋に音楽として聴くならば、ショスタコーヴィチの影響は感じられるものの、若きヴァインベルクの才気、あっぱれお見事と思うのじゃが如何。
もっとも4番、5番、6番と、彼の交響曲はさらなる高みへと登ってゆくのじゃが・・・。

それにしてもシャンドス・レーベルヴァインベルク・シリーズ、リリース快調!!
ひょっとして、いつの日か交響曲全集(全21曲!)が完成するのかっ?
ま、待ち遠しい・・・。
全国津々浦々のヴァインベルク・ファンの皆様(何人いるんだろ?)、ともに身を清めて待ちましょうぞ!!

(11.6.7.)

関連記事
ヴァインベルク/交響曲第7番&第3番 ほか(ミルガ・グラジニーテ=ティーラ指揮)

その他の「ヴァインベルク/交響曲」の記事
ヴァインベルク/交響曲第1番&第7番
ヴァインベルク/交響曲第1番&チェロ協奏曲
ヴァインベルク/交響曲第2番&室内交響曲第2番
ヴァインベルグ/交響曲第4番、シンフォニエッタ第2番 ほか
ヴァインベルグ/交響曲第5番、シンフォニエッタ第1番
ヴァインベルグ/交響曲第6番(コンドラシン指揮)
ヴァインベルク/交響曲第6番 ほか(フェドセーエフ指揮)
ヴァインベルク/交響曲第6番ほか(ランデ指揮)
ヴァインベルク/交響曲第8番「ポーランドの花」
ヴァインベルク/交響曲第10番ほか(クレメラータ・バルティカ)
ヴァインベルク/交響曲第12番「D・ショスタコーヴィチの思い出に」
ヴァインベルク/交響曲第13番
ヴァインベルグ/交響曲第16&14番
ヴァインベルク/交響曲第17番「記憶」(フェドセーエフ指揮)
ヴァインベルク/交響曲第17番「記憶」(ウラディミール・ランデ指揮
ヴァインベルク/交響曲第18番「戦争、これより残酷な言葉はない」 ほか
ヴァインベルク/交響曲第19番「輝ける五月」 交響詩「平和の旗印」
ヴァインベルク/交響曲第20番&チェロ協奏曲
ヴァインベルク/交響曲第21番「カディッシュ」ほか(ドミトリ・ヴァシリエフ指揮)
ヴァインベルク/交響曲第2番 & 第21番「カディッシュ」(ミルガ・グラジニーテ=ティーラ指揮)
ヴァインベルク/舞踏交響曲&交響曲第22番
ヴァインベルク/室内交響曲全集ほか(クレメラータ・バルティカ)
ヴァインベルグ/室内交響曲集(ラフレフスキー指揮)
ヴァインベルグ/室内交響曲第1&4番(スヴェドルンド指揮)


「音楽の感想小屋」へ

「整理戸棚」へ

「更新履歴」へ

HOMEへ