ショスタコーヴィチ/祝典序曲、森の歌 ほか
 (アシュケナージ指揮 ロイヤル・フィルハーモニー)



Amazon.co.jp : ショスタコーヴィチ:オラトリオ「森の歌」


戦慄の「森の歌」!

<曲目>
ショスタコーヴィチ/祝典序曲
交響詩「十月革命」
交響曲第2番「十月革命に捧ぐ」
オラトリオ「森の歌」


いままでに聴いたショスタコーヴィチのCDの中で最も戦慄した一枚。

いわゆる体制礼賛作品ばかり4曲集めたアルバムで、指揮はソ連からの亡命者であるアシュケナージ


最後に収められた「森の歌」が、もの凄い演奏です。

「森の歌」は、「交響曲第9番」でスターリンの不興を買い、
さらに1948年の「ジダーノフ批判」で槍玉に挙げられ、マジで身の危険を感じたショスタコーヴィチが、

 「こりゃいかん!」

と、大慌てで書いた、ソ連の国家植林事業を礼賛するオラトリオ。
要するに体制側へのゴマすり作品です。

しかしさすがは天才ショスタコ、美しいメロディと力強いハーモニーで目一杯盛り上がる名曲となり、初演は大成功
一挙に名誉挽回したショスタコーヴィチ、ひとまず胸をなでおろしました。

作曲の意図と経緯は別にして、純粋に音楽として聴けば、
確かに素晴らしい作品だと思います。

ところが・・・・このアシュケナージ指揮の「森の歌」は・・・


 まるで死人が演奏しているように無気力です。


 いったいこれはなんなのでしょう?

実はこの録音が行われたのは、1991年10月
1989年にベルリンの壁が崩壊してから、ソ連邦を離脱する国が続出、誰の目にもソ連の命運が尽きかけていることが明らかな時期でした。
そして、この録音のわずか2ヵ月後(1991年12月)、ついにソ連という国家は消滅します。

そんな時期にわざわざ録音された「森の歌」なのです。

プロの演奏家が普通に演奏すれば、普通に盛り上がるこの曲を、これほどダルく、無表情に演奏するとは・・・・・逆の意味で聴きものです。
合唱も独唱もびっくりするほど投げやり
独唱者はふたりともソ連人、「自分の国がどうなるかわからない時に、こんな曲歌っていられるかー!」 と思っていたに違いありません。

とくに終曲「栄光」の、のったり〜&ずんべんだらり〜とした演奏!
地の底で地獄の亡者が歌っているようです。
じつはこの部分の歌詞は

 「共産主義の輝きを見よ! 真実と明るい未来は我らとともにある。
  レーニンの党に栄光あれ! 人民に栄光あれ! 賢明なる党に栄光あれ!」


これほどの皮肉はありません。
アシュケナージでなくても、「やってられるかよ」と思いますよね。


たまたま契約の関係でこの時期に録音されたのかもしれませんが(それにしてもねえ・・・)
期せずして亡命者アシュケナージの、愛憎半ばする祖国への鎮魂歌
あるいは旧ソ連体制への呪詛のように聴こえてくるのです。
背筋がひんやりして、なんだか怖くなってきます。

普通の意味での名演奏ではまったくありませんし、初めてこの曲を聴く人には絶対に薦められませんが、
時代背景を考えながら聴くと、なかなか味わい深いものがあります。
たまに聴いてはゾクゾクするのが楽しみです(←変)

聞くところによるとショスタコーヴィチは、この曲を作曲したことを生涯の汚点と思っていたそうです。
となると、これこそ作曲者の意図にもっとも忠実な演奏なのかもしれないというパラドクス。

なおこのディスク、アシュケナージのショスタコーヴィチ:交響曲全集にもそのまま収められています。

ちなみにしっかり盛り上がる演奏をお聴きになりたい向きには、スヴェトラーノフの演奏をお勧めします。

(10.5.18.)


ショスタコーヴィチ「森の歌」より(このCDの演奏ではありません)




HNV : ショスタコーヴィチ/交響曲全集 アシュケナージ icon



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