ショスタコーヴィチ/交響曲第6番(1939)




ショスタコーヴィチ : 交響曲 第6番&第10番


ソ連(今はロシア)の作曲家・ショスタコーヴィチ(1906〜1975)の15曲の交響曲で、とくに好きなのは第6番(え、変ですか?)。
一般的には第5番(革命)とか第7番(レニングラード)が人気で、通は第8番第10番あたりを好むようですが、第6番も捨てたものではありません。
全3楽章で長さは手ごろ(30分あまり)、洒落たメロディをふんだんに投入し、
叙情的味わいにも迫力にも不足せず、おまけにオーケストラの超絶技巧を楽しめるという、まさに一粒で何度も美味しい名曲なのです。

ただし、まずは第2楽章・アレグロから聴いてください。

クラリネットに現れるクネクネしたテーマが、しだいに他の楽器を巻き込んでゆきます。
めまぐるしいほどにたくさんのメロディが現れては消え、かろやかにたわむれたり、笑ったり、怒ったり、踊り狂ったり。
これはアタマで聴く音楽じゃありません、耳で受け止めた音に肉体を共振させ、響きの中に自我を埋没させる快楽を味わう曲。
演奏にはきわめて高度なアンサンブル能力が要求されます。

 

つづく第3楽章・プレスト
ロッシーニの「ウィリアム・テル序曲」を思わせる開始主題でアレッと思わせ、
たくさんの主題要素を贅沢にぶちまけ、華やかに、にぎやかに繰り広げられる乱痴気騒ぎ。
ふいにすっとぼけたメロディを挿入して力を抜くかとおもえば、ふたたび煽り立てるがごとくにテンションを高め、
最後はいかがわしいカーニバル然としたブカブカドンドン、打ち上げ花火のような闊達壮大な盛り上がりで大団円に。
唖然とするほどの名作傑作マスターピース、これまたオーケストラには、すんごい高い技術が必要です。

 

さて、問題は第1楽章・ラルゴ。 
十数分におよぶ、のったり〜、ぬっぺり〜とした、つかみどころのない音楽。
正直に最初から聴き、第2楽章に到達できずに遭難するリスナー、数知れずといわれています。
でもこの楽章、抒情的で繊細な響き、冴え冴えと澄み切った味わいがたまらないのです。

冒頭、ヴィオラとチェロにでるいかめしい主題は、「厳しい冬」を思わせます。
ヴァイオリンとフルートが高音で切り込んでくるのは、冷たくも鋭い太陽の光か。
これが数分にわたり重々しく展開されたのち、弦のトレモロの上で金管楽器のファンファーレとして再現されたら第一部終了。

つぎにイングリッシュ・ホルンに寂しげな主題が出るところから長い中間部(5分52秒)。
やがて、フルートによる小鳥の歌が聴こえてきて、かすかに「春の訪れ」を予感させます(6分43秒)。
弦が加わり大きく盛り上がった後、クラリネットのソロに続いて、2本のフルートが歌い交わすように中間部主題を展開します(9分49秒)
このあたり鳥たちが冬眠から目覚める光景を想像します。

最後に冒頭の主題がなにげなく戻ってきますが(12分51秒)、最初のような厳しさはなく、楽章は春の光が差し込んでくるように閉じられます。
中間部が異常に長い(または第三部が異常に短い)三部形式といえます。

 

続く第2楽章は「春らんまん」、第3楽章は「春の祭り(祭典?)」の気分で聴くと、今の季節にじつにぴったりの曲ですねえ(ホントかー?)。

CDは、第2&3楽章が高速で演奏されている、
ムラヴィンスキー/レニングラード・フィルの1972年ライヴ(メロディア)が、お気に入りです。
二つの楽章を、合計12分19秒で走り抜けます。 これがライヴなんだからすごい。 スリリングです。
ただし残念ながら、今現在入手困難かもです。

もっとも売れているショスタコーヴィチの交響曲全集、バルシャイ盤(ブリリアント)も、たいへん見事。
第2&3楽章の合計タイムは12分48秒で、かなりの高速演奏、とくに木管楽器群のテクがすごいです。 
ひとことで言えば「カッコイー!」。
入手しやすさを考えると、現在のところこれがベスト・チョイスでしょう(全集ではありますが、10枚組4500円ほど)。

異彩を放っているのが、ロジェストヴィンスキー/ソビエト文化省オケ(オリンピア)。
金管と打楽器が異常に強力、凶暴・凶悪な雰囲気がじつにすばらしい。
にぎやかなパレードを後方から重戦車が監視しているような印象。
タイミングは第2&3楽章で13分52秒と普通ですが、この迫力は普通じゃない(これも入手困難?)

 第2楽章
 

 第3楽章 (弦の硬質な切込み、そして2分半あたりから金管と弦楽器が総攻撃をかけてきます。6分40秒からのティンパニの凶暴さ)
 

ハイティンク/ロンドン・フィルの全集(デッカ)は世評高いですが、この曲に関しては、どうにも平板な印象。 もうひとひねり欲しかったなあ。 
きちんとした演奏で、別にどこが悪いというのではないのですが・・・とにかく平板。
第2&3楽章で13分26秒と、ロジェヴェンより速いのですが、なんだかもたもたして聴こえます。

ウラ名演というか、ややトンデモなのがバーンスタイン/ウィーン・フィル (ドイツ・グラモフォン)。
2&3楽章の演奏時間が15分25秒! 異常な遅さです。
とくに第2楽章はハエが止まりそうなほどの超スロー演奏。
そしてウィーン・フィルはあくまで流麗かつ典雅。 不思議な味わいです。
こわいもの聴きたさでどうぞ。

 第2楽章
 

 

(04.3.7.記)


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