ヴァインベルグ/交響曲第6番 イ短調
Amazon.co.jp : Vainberg: Symphonies 4 & 6
Tower@jp : VAINBERG:SYMPHONY NO.4/NO.6
ミェチスワフ・ヴァインベルグ Mieczyslaw Vainberg(1919〜1996)という作曲家をかねてから偏愛している私です。
しかしこの人、少なくとも日本では超マイナー、ほとんど知られてません。
どのくらいマイナーかというと、2003年現在 Google で「ヴァインベルグ」を検索すると、この私のサイトが1番にヒットするほどですから、推して知るべし。
それでもヴァインベルグのCD、現在十数枚以上発売されていて、ネットならどうにか手に入りますから、まあ便利な時代になったもの。
さて、ヴァインベルグの作品でいまのところ一番のお気に入りといえば、それは「交響曲第6番(1963)」でございます。
演奏はキリル・コンドラシン指揮/モスクワ・フィル(1974年録音)。
管弦楽プラス児童合唱という珍しい編成、全5楽章、42分の大作。
ショスタコーヴィチは初演を聴いて感激し、
「レニングラードで聴く機会があったら絶対聴き逃すな。昨日の初演はすごかったよ!」
と友人に書き送ったといわれています。
第1楽章アダージョ・ソステヌートは、管弦楽によるいわば前奏曲。
ホルンの序奏に続き、ヴァイオリンに出る息の長い旋律が、植物が増殖するように徐々にオーケストラ全体に広がってゆきます。
不安定にたゆたうメロディが美しく、深い哀愁を感じさせます。
ショスタコーヴィチの影響を受けていることは一聴瞭然ですが、ショスタコにはないロマンティシズムがふんだんに盛り込まれています。
「しっとりしたショスタコーヴィチ」という感じでしょうか。
第2楽章アレグレット「小さなヴァイオリン」は、児童合唱の素朴で楽しげな響きと、ヴァイオリン・ソロが印象的。
弾いて、弾いて、私の小さなヴァイオリン
トララ、トララ、トラリ
音楽は庭に響き 遠くに消えてゆく
猫は頭をかしげ 馬が駆ける
どこから来たの? どこから来たの?
見慣れないあのヴァイオリン弾きは?
歌詞はユダヤ系詩人リュー・クグィトコ(1890〜1952)のもの。
彼は1952年にKGBに処刑されたそうです。
第3楽章アレグロ・モルトは、快活な中に狂気の見え隠れするスケルツォ。この交響曲の白眉です。
荒々しく疾走する音響、グロテスクでユーモラスな哄笑は、ショスタコーヴィチやプロコフィエフの傑作と比べても全くひけをとりません。
いやホントスゴイっすよ、この楽章の凶悪さは!
第4楽章ラルゴ「赤い粘土に溝が彫られた」
けたたましい警報のようなファンファーレに続き、児童合唱が戦争の災厄を静かに歌います。
歌詞はシェムエル・ハルキン(1897〜1960)の詩で、1941年にキーウ近郊で起きたナチスによるユダヤ人虐殺を描いています。
赤土に溝が掘られ 縁まで埋められた
数えきれないほどの子供たちが殺された
溝は粘土で赤くなっているのではない
この溝が彼らの家であり安息の地
彼らはいまも暗い穴 赤土の中にいる
続けて演奏される第5楽章アンダンティーノ「眠れ 人々よ」は、合唱が子守唄のような安らぎのメロディを歌います。
歌詞はソ連共産党に忠実だったミハイル・ルコーニンという詩人の作品。
作曲者が「社会主義リアリズム」に忖度したというか、検閲を警戒した結果と思われます。
眠れ 人々よ 休め
あなた方は疲れている
愛と労働から離れて休みなさい
天の川は星の群れで満ちている
あなた方の窓は 花のように枯れている
あなた方の手は 充分に働き疲れている
一日働いた労働者よ休息をとりましょうという詩ですが、作曲者は戦争の犠牲者に向かって「安らかに眠れ」と言っているのでしょう。
最後に第1楽章の主題が回想され、第2楽章と同じく独奏ヴァイオリンが孤独に歌い、静かに曲を閉じます・
恐るべき傑作ですが、通して聴くとけっこう疲れます。
ヴァインベルグはポーランド生まれのユダヤ人、家族兄弟を全員ナチスに殺害され、命からがらソ連まで逃げ延びた人。
ソ連でもスターリン政権下でいろいろ迫害され、苦労多い人生を送りました。
もう少し人気が出れば、浮かばれるかな。
なおカップリングの交響曲第4番も、なかなかの名作です。
ショスタコーヴィチは、後輩作曲家たちの中で、このヴァインベルグのほかに
ガリーナ・ウストヴォルスカヤ(1919〜)、ボリス・チャイコフスキー(1925〜1996)なども、とても高く評価していました。
彼らももっと人気が出て欲しいなあ。
(03.12.24.記)
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