ヴァインベルク/交響詩「夜明け 作品60」 & 交響曲第12番「ショスタコーヴィチの思い出に」
ヨーン・ストルゴーズ指揮 BBCフィル



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出ました!

ミェチスワフ・ヴァインベルク作品の世界初録音がまた出ました!
全国推定100人ほどのヴァインベルク・ファンの歓喜の声が・・・聞こえませんがまあいいです。


交響詩「夜明け 作品60」(1957)、世界初録音でございます。

ヴァインベルクはスターリン時代は共産党から相当にらまれていて、1953年には身に覚えのない国家反逆罪で逮捕されました。
国家反逆罪といえば下手すりゃ死刑、良くてシベリア流刑が相場。
しかし運よくスターリンがポックリ死んでくれたことで無罪放免となり(?)、なんとか命拾い。
「夜明け」は、恐怖の記憶もまだ癒えない1957年、ロシア革命40周年を記念して書きました。
重苦しい暗闇から戦いを経て栄光に至るという内容で、ヴァインベルクとしては精一杯革命を賛美したつもり。
ここらでひとつ体制に従順なところを見せて、もう逮捕されないようにしようという思惑か。
しかし残念ながら生前に演奏されることはなく、2019年に本CDの指揮者 ヨーン・ストルゴーズの指揮で演奏されたのが初演となりました。

さすがはヴァインベルク、作曲動機の不純さ(?)にもかかわらず、充実の音楽を作り上げてます。
いささか表面的ではありますが、作曲目的を考えればそれも計算のうち。
水も漏らさぬ緊密なオーケストレーションで、ハイレベルな映画音楽のように楽しめます。

 


交響曲第12番「ショスタコーヴィチの思い出に」(1976)は、これが3つめの録音。
2019年にはN響の定演でも取り上げられました。
日本でヴァインベルクの交響曲が演奏されたのは今のところこれが唯一無二、もっとやってくれてもええんやで。
タイトルに「ショスタコーヴィチ」の名があるので、ヴァインベルク・ファンの数十倍はいるであろうショスタコ・ファンが 「いっちょ聴いてみるか」と思ってくれそうで
セールス的に期待できるのでしょうか。

1975年8月に亡くなった親友ショスタコーヴィチに捧げた55分の大曲で、聴き応えのある力作です・・・ただしちょっと長いかな。
本CDの解説には、初演するはずだったキリル・コンドラシンが大きなカットを要求したのでヴァインベルクが怒って初演を撤回したエピソードが載っています。
コンドラシンは交響曲第4番、第5番、第6番、ヴァイオリン協奏曲、トランペット協奏曲などを初演・録音してくれた恩人で盟友でしたが、この一件で決別。
その後コンドラシンは78年に西側に亡命、81年に亡くなってしまいます。
結局1979年にショスタコーヴィチの息子マキシムの指揮で初演・録音されました。

まあ確かに長いです、コンドラシンにも一理あると思わないでもないです(とくに第1楽章)。
それでも第3楽章の透明感あるアダージョは絶品、静かに始まりますが中盤ではティンパニが連打され、管が咆哮。
終わり近くでは弦楽器群のすすり泣きに思わずもらい泣きしてしまいます。
偉大な作曲家の追悼にふさわしい音楽と言えましょう。

 第3楽章
 

第4楽章は前の楽章からアタッカで続きます。
ヴァインベルクの面目が躍如して個性が大爆発しています。
つぶやくようなマリンバの音型に始まる、静かで謎めいた音楽。

 「こ、これが交響曲のフィナーレ??」

ならばつまらないのかと言えば全然そんなことはなくて、「なんじゃこりゃ?」と思いながらついつい最後まで聴いてしまいます。
形式的にはマリンバの主題によるロンドですが、現れるエピソードはどれも魅力的というか絶妙にイカレていて嬉しくなります。
12分くらいから長いコーダ、あらぬ彼方から聴こえてくる瞑想的な調べは、ショスタコに「彼岸で待つ」と言われてるみたいでちょっと怖い。
やがて鐘の音が遠くからチリンチリンと響き、マリンバがロンド主題をゆっくりとつぶやきながら曲を閉じます、なんまんだぶなんまんだぶ。

 第4楽章
 

ショスタコーヴィチ・ファンの皆さん、毎年ショスタコの命日(8月9日)にはこの曲聴きませんか?

(2023.11.12.)


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