ミェチスワフ・ヴァインベルク/ポーランドの旋律・交響曲第21番「カディッシュ」
ドミトリ・ヴァシリエフ指揮 シベリア交響楽団 ヴェロニカ・バルテニェヴァ(ソプラノ)



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ミェチスワフ・ヴァインベルク(1919〜1996)最後の交響曲、第21番「カディッシュ」(1991)のCDがリリースされました。
あれよあれよという間に録音が増えてゆくヴァインベルク
これで、まだ録音されていない交響曲は、第9番「永続する時」、第11番「祝典交響曲」、第13番、第15盤「私はこの大地を信じる」の4曲のみとなりました!
そう遠くない将来に、まさかの全曲録音完了もありうるかも?
そんなこと、数年前には夢のまた夢でしたから、本当に夢のようです。

「カディッシュ」とは、ユダヤ教の埋葬の儀式で唄われる、死者への追悼の祈りだそうです。
レナード・バーンスタインの交響曲第3番にも同じタイトルがついています。
そのお祈りの冒頭を日本語に翻訳すると、

 「神の大いなる名にこそ栄光あれ。 その名を聖となせ。 神がその遺志によりつくられしこの世にあまねく」

・・・まあ「般若心経」みたいなもんですかね(←違う)。
なお、曲の中に言葉は出てきません。
最後の楽章だけソプラノ独唱が登場しますが、歌詞のないヴォカリーズです。

この交響曲は「ワルシャワ・ゲットーの犠牲者たち」に捧げられています。
「犠牲者たち」には、ヴァインベルクの両親や幼かった妹も含まれます。

 ヘヴィです・・・。

現代の日本人が真に理解することは不可能かもしれません。
しかし上辺だけ聴いても、老境に達した職人的作曲家の熟達の技を堪能できる、見事な作品。
続けて演奏される6つの楽章からなる、大管弦楽とソプラノ独唱のための、53分を超える大作です。

第1楽章レントでは深い悲しみの歌がしみじみと歌われ、独奏ヴァイオリンが語り手のように導きます。
終わり近く、唐突にピアノ・ソロによりショパンの「バラード第1番」が引用されます。
祖国ポーランドが生んだ偉大な作曲家へのオマージュでしょうか。

 

第2楽章アレグロ・モルトは、激しく暗い怒り。
ヴァインベルクの交響曲ではよく出くわすタイプの楽章で、「またか」という感じですが、これが最後ですから我慢して聴きましょう(べつに我慢せんでも・・・)。
巧みなオーケストレーション、エキセントリックな緊張感、迫力と貫禄に満ちた大変聴きごたえのある楽章です。

 

第3楽章ラルゴ
悲痛な慟哭に始まり、コントラバスの長いソロがそれに続きます(交響曲には珍しい!)。
このソロは、無伴奏コントラバス・ソナタ作品108からの引用です。

 

第4楽章は、サーカスの楽隊のような、騒がしくひょうきんな短いプレスト

 

第5楽章アンダンティーノ
木琴の乾いた響き、ソロ・ヴァイオリンのピチカートが寂寥感を醸し出します。
室内楽のように静かに進行しますが、後半全合奏で大きく盛り上がり、そのまま最終楽章になだれ込みます。

 

第6楽章レント
巨象の断末魔のようなホルンの咆哮にみちびかれ、ようやくソプラノ独唱が登場(2:45から)。
歌詞はなく、ヴォカリーズです。
澄んだ慰めの歌がミステリアスにつむがれてゆき、第1楽章の主題が再現したり、ショパンのバラードが再び引用されたりします。
死者の安息を祈るような静かな静かな音楽です。
後半、ハーモニウム(足踏みオルガン)が登場して「おっ?」と思わせ、続いてソプラノが高音を力強く歌い上げ、
オーケストラもトゥッティで強音を響かせたあと、曲は力尽きたように静かに終わります。

 
 
力作・傑作ですが、長いし、ちょっととっつきにくいかなあ・・・。
これからヴァインベルクを聴こうかという物好きな、もとい変わった、もとい奇特なかたは、「交響曲第6番」 「室内交響曲第1番」 「チェロ協奏曲」などをおすすめいたします。


併録の「ポーランドの旋律」(1950)は、親しみやすく明るい、4曲からなる組曲。
ジダーノフ批判ショスタコーヴィチがコテンパンにやられ、友人だったヴァインベルクもユダヤ人ということで余計に睨まれ、冗談でなくいつ抹殺されるかわからなかった時期の作品。
これは「社会主義リアリズム」に忠実に作られた、「強制された歓喜」作品の一つといえます。
そう思えば複雑ですが、カバレフスキーの「道化師」をちょっと地味にしたみたいな、とても聴きやすい佳曲です。

 第4曲
 (このCDの演奏ではありません)

(2014.9.7.)

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