ヴァインベルク/交響曲第１９番「輝ける５月」ほか

ヴァインベルク/交響曲第１９番「輝かしき五月」作品１４２
交響詩「平和の旗印」作品１４３
（ランデ指揮　サンクトペテルブルク交響楽団）

Amazon.co.jp : ヴァインベルク:交響曲第19番「輝く五月」Op.142 交響詩「平和のバナー」

HMV : Weinberg/Symphony No.19 "Bright May"etc.

Tower@jp : Weinberg: Symphony No.19 "Bright May", The Banners of Peace

どうやらシャンドスのみならずナクソスまでがミエチスワフ・ヴァインベルク（１９１９～１９９６）の交響曲に本腰を入れはじめたようです！

「交響曲第６番」に続き、「交響曲第１９番”輝かしき五月”」(1985)がリリースされました！

続けて演奏される３つの楽章からなる３４分の大曲。
「輝かしき五月」とは、ソ連軍がナチスドイツを打ち破った１９４５年５月を指します。

とはいえ作曲されたのは１９８５年。
第１７番「記憶」（１９８２～８４）、第１８番「戦争、これより残酷な言葉はない」（１９８４）に続く「戦争三部作」の最後を飾る曲です。

　第１楽章
　

只今こちらは寒い十二月なので、「輝かしき五月」を聴けばポカポカあったかい気分になれるかもと思ったら大間違い。
冒頭の主題から厳しく重々しく、浮かれた感じはどこにもありません。

第２楽章は優しい歌でのどかに始まりますが、途中から激しく荒っぽい展開となり、

　「あのー、まだ戦争終わってないみたいに聴こえるんですけど」

と突っ込まずにはいられません。

　第２楽章
　

第３楽章は静かに始まりますが、そのまま盛り上がることも明るくなることもなく、ひたすら悲劇的。
不穏な気分を湛えたまま、消え入るように全曲を閉じる、ヴァインベルクお得意のアンチ・フィナーレです。

　第３楽章
　

　・・・全然輝かしくないんですけど！

むしろ戦争の犠牲者に哀悼の意を捧げた作品なのでしょう。
三部作の表題はすべて、女流詩人アンナ・アフマートヴァ（１８８９～１９６６）の作品にちなんだもの。
今でこそソビエト最高の女流詩人の一人と言われますが、スターリン時代には徹底的に弾圧され、
ショスタコーヴィチとともにジダーノフ批判でコテンパンにやられた人。
同じくソビエト時代には迫害されたヴァインベルク、わざわざ彼女にちなんで作品を書くということは、それなりの意図が隠されているのでしょう。

とはいえ、曲自体は緊張感に満ちた素晴らしいもので、美しい瞬間があそこにもここにも。
大管弦楽を自在に操る、円熟期ヴァインベルクの老練な技を堪能できます。
１９８０年代に作曲されたとは思えないアナクロさも天晴れ。
本人は、「どうせ私の音楽は時代遅れの代物さ・・・」とぼやいていたそうですが、
マーラー、ショスタコーヴィチの正当なる後継者はミエチスワフ・ヴァインベルク！と声を大にして言いたい年の暮れであります（誰も聞いてくれないけど）。

「輝かしき五月」に続いて作曲された20分ほどの交響詩「平和の旗印」（１９８６）は、
なんとソビエト共産党からの依頼によって作曲され、第２７回共産党大会で初演された曲。
自分を弾圧し逮捕までした共産党と、このころ一定の和解に達したのでしょうか。
もちろんヴァインベルク自身が共産党に入党することは決してありませんでしたが。
晴れやかなコラール風弦楽合奏に始まり、ヴァインベルクにしては珍しく祝典的。
「戦争三部作」に比べると表面的で軽いのは仕方ないですが、逆に言えば気楽に聴けます。

　

このあとヴァインベルクは大曲から離れ、比較的小規模で穏やかな室内交響曲のシリーズに軸足を移してゆきます。
もっとも1988年にはふたたび大曲「交響曲第２０番」を書きますが。

（２０１２．１２．３０．）