サン=サーンス/ピアノ協奏曲第4&5番 
(ピアノ:田中希代子 NHK交響楽団)
(1965、1968年 ライヴ録音)



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Tower@jp : 田中希代子の芸術::サン・サーンス:ピアノ協奏曲第5番「エジプト風」&第4番



栄光と悲運のピアニスト、田中希代子(1932〜1996)。
名前は存じておりましたが、今回はじめてCDを聴いて、ぶっ飛びました、ひっくりかえりました。

 こりゃすごい!

とくにサン=サーンス/ピアノ協奏曲第5番「エジプト風」、なんなんですかこの超絶的大名演は!
ピアノの粒立ちの良さ、輝くばかりの音色、ほとばしる情熱。
サン=サーンスの名曲を、切れ味鋭く完璧に弾ききりながら、おさえきれない強烈な個性が奔馬のように駆け巡ります。
熱いエネルギーが溢れんばかり、ライヴならではの生々しさもたっぷりです!(ライヴなんだこれ!!)
戦後まもない日本に、こんな凄いピアニストがいたとは・・・。

 サン=サーンス:ピアノ協奏曲第5番「エジプト風」第3楽章
 

田中希代子(1932〜1996)
 東京出身、4歳でピアノを始め、井口基成、安川加壽子に師事。
 1950年、18歳で単身フランスに留学(当時としては大冒険!)、受験者300人中トップの成績でパリ国立高等音楽院に入学。
 翌1951年にためしに卒業試験を受けてみたところ、一等賞「プルミエ・プリ」で合格してしまい、いきなり卒業!
 1952年、ジュネーブ国際音楽コンクールで1位なしの2位(日本人初の国際コンクール入賞)。
 1953年、ロン・ティボー国際音楽コンクール4位入賞。
 1955年、ショパン・コンクール10位入賞、3つの有名コンクールに立て続けに入賞し、「東洋の奇蹟」と呼ばれる。
 なおショパン・コンクールの審査員のひとりベネディッティ・ミケランジェリは、希代子の10位は評価が低すぎると抗議、確認書に署名を拒否した。
 その後ヨーロッパを中心に活発な演奏活動を展開するが、1968年、36歳で膠原病(全身性エリテマトーデス)を発症、思うように手が動かなくなり、ピアニスト生命を絶たれる。
 引退後は国立音楽大学、桐朋学園大学などで後進を指導。
 1980年、薬の副作用から脳梗塞を起こし右半身不随となる。
 1996年、脳内出血のため死去、享年64歳。
 美智子皇后は、かねてから希代子の大ファンで、死去の報を聞くと自ら摘んだ草花で花束を作り、「希代子さんの演奏は、私の心の支えでした」というコメントを添えて希代子の自宅に届けた。
 なお、NHK交響楽団のコンサート・マスターとして長年活躍した田中千香士は実の弟である。


「努力したから成功するとは限らないが、成功した人間は必ず努力している」と申しますが、
田中希代子もその例に漏れず、小学生の頃から毎日午前5時に起きて、ひと練習してから学校に行ったそうです。
プロになってからも毎日の早朝練習は欠かさなかったとか。
す、すごい・・・。
才能とは努力する能力でもあるのだなあ。
夏休みのラジオ体操すら三日で挫折したおいらには、あんたはまぶしすぎるぜ。

実のところ、彼女くらい指の回るピアニストは、大勢いると思います。
それでも田中希代子の演奏には曰く言い難いオーラがあります。
紛れもない個性が刻印されています。
名前を伏せて聴かせられても、思わず「おっ!?」と耳をそばだててしまう強烈なサムシング。
そのキャラの立ち様、鮮烈さは、同い年のグレン・グールドや、若いころのマルタ・アルゲリッチと遜色ない・・・、
と言ったら褒めすぎでしょうか。

カップリングのサン=サーンス/ピアノ協奏曲第4番は、1968年1月26日の録音。
前年の12月に一時帰国したときに体調を崩し、年末年始のヨーロッパ・ツアーをキャンセル、原因不明の関節痛と高熱に苦しんでいた時期でした。
本人は過労だと思っていましたが、じつはすでに病魔が彼女の体をむしばんでいたのです。
しかし、この力強く生命力みなぎる演奏は見事です、超素晴らしいです、圧倒されます。
ひたすら傾聴するしかありません。

(2013.5.27.)


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