サン=サーンス/ヴァイオリン協奏曲第3番

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前にご紹介した「船上でチェロを弾く」のなかで藤谷治さんは、
最近サン=サーンス(1835〜1921)が気になっている、と述べておられます。

  なんなんだろう、この人の音楽は。つまらんといえばつまらんが、聴こうとすると掘り下げられるものが多いようにも思え、
  だが掘り下げようとすると意外なほど軽薄な音が鳴っていたりする。僕はまだ、きちんと「こう!」といえない段階である。
                                                 (「船上でチェロを弾く 203ページ)

サン=サーンスの音楽、私は大好きです。
しかし考えてみると、その人間像に関しては
ほとんど何も知らない
ことに気づいて軽くびっくりの今日このごろ。

音楽のみならず文学・歴史・天文学・絵画・演劇などにも造詣が深く、さながら歩く百科事典のようだったとか、
頑固で気難しく人間嫌いだったとか、
ドビュッシーとは犬猿の仲だったとか、
ベートーヴェンのピアノ・ソナタはすべて暗記していて、どの曲のどの楽章でも暗譜ですぐ弾けたとか
北アフリカが好きで、アルジェリアで客死したとかは聞いておりますが・・・。
結局どういう人だったのでしょうか。 イメージが浮かびません。

まあ、作曲家の人間像なんて、どうでも良いことかもしれません。
作品が素晴らしければ、それがすべて。


さて、ヴァイオリン協奏曲第3番 ロ短調 作品61、傑作のほまれ高い曲です。

しかし、ロマン派のヴァイオリン協奏曲の中では、メンデルスゾーン、チャイコフスキー、ブルッフの後塵を拝し
ちょっと影が薄い感は否めません。
まあ、グラズノフには勝ってるかもしれませんけど。

ほの暗い悲愴感と優雅さが溶け合った、情熱の第1楽章
自由なソナタ形式で書かれています、端正でありながら奔放という二重性の魅惑。



運河の上でゴンドラに揺られているような、夢見る第2楽章
展開部のないソナタ形式とも変則的な三部形式ともいえますが、とにかく繊細で優美な揺らぎに魅了されます。



勇壮で凛とした主題に魅了される、自由なロンド形式の第3楽章
奔放に飛翔し、気まぐれに羽ばたき飛び回る響きの饗宴、もう形式なんかどうでも良いですね。



ドラマティック&デラックスな、超弩級の大傑作協奏曲だと思います・・・もっと人気あってしかるべきかと。
サン=サーンスは後輩のドビュッシーから保守的な作曲家の代表格としてずいぶん批判されました。
響きはたしかに古典的ですが、形式的には伝統をおとなしく守る曲はむしろ少なく、大胆かつフリーダムな作品が多いと思うんですよね〜。

私の愛聴盤を3種類ご紹介いたします。

まずはフランチェスカッティ独奏/ミトロプーロス指揮/ニューヨーク・フィル
1950年のモノラル録音ですが、ツヤツヤ美音と粋な歌い回しが、もう最高。
ところどころ弾き飛ばしてる感じですが、これ仕様ですよね、狙ってやってますよね?
微笑みながら軽々と弾いている様子が目に浮かびます。
軽妙洒脱、優雅で華麗、この協奏曲のラテンなノリにぴったりです。
一部に慣習的なカットがあるのが残念。

次に、グリュミオー独奏/ロザンタール指揮/コンセール・ラムルー管弦楽団
1963年の録音。フランチェスカッティよりは少し、かなり、相当几帳面ですなぁ。
隅々までコントロールが行き届いた、明快で洗練された演奏であります。
のびやかさ、華やかさも適切に配分された、完璧な名演を実現。
サン=サーンスの古典主義者的側面を強く感じさせてくれます。

キョンファ・チョン独奏/フォスター指揮/ロンドン交響楽団
1974年、チョンのデビュー間もないころの録音。
燃えたぎる情熱、あふれる気迫、そこまでやらいでもと言いたくなるほどの没入型演奏
その力の入りようは少々泥臭いほどで、
フランチェスカッティが聴いたら「やだねえ、カッカしちゃって」とか言いそうですが、
スケールの大きさと高揚感はピカイチ。
ちなみに演奏時間も一番長いです。

(11.4.13.)

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