サン=サーンス/レクイエム 作品54
(ジャック・メルシエ指揮 イル・ド・フランス国立管弦楽団 ほか)




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今年2011年は、カミーユ・サン=サーンス(1835〜1921)没後90年。

以前にも書きましたが、洗練と俗っぽさが絶妙にブレンドされたこの人の音楽、たいへん好きです。
しかし音楽以上に、人間像の得体の知れなさに惹かれます。
いったいどういう人物だったのでしょう・・・?

さて、三十歳代のサン=サーンスは、パリ・マドレーヌ教会のオルガニストとしてチョー多忙。

 「仕事なんかやめて作曲に専念してえなぁー、でも生活がなあ・・・」

と嘆く彼に、知人の郵政大臣アルベール・リボンが、

 「私が死んだら10万フランを君に贈るよ。その代わり私のためにレクイエムを作曲してくれ」

と申し出ます。

10万フランあれば食うには困らない! 超ラッキー!
サン=サーンスにはリボン氏が白馬の騎士に見えたことでしょう。

 これがホントのリボンの騎士

そしてリボン氏は1877年に死去。
じつは亡くなる直前に、

 「約束通り10万フランは贈るけど、レクイエムはもういいよ、忘れてくれ」

と言ったのですが、サン=サーンス氏、

 「いや、書きますよ。約束っすから」

翌1878年4月にスイスはベルンのホテルにこもり、わずか8日間で書き上げたのがこの「レクイエム 作品54」です。
(律儀なような、いい加減なような・・・。)

楽譜出版社デュランにあてた手紙によると
「けさ、キリエにとりかかりました。明日には出来上がるでしょう。明後日には郵送します」(1878年4月4日)
「初めの2曲は届いたことと思います。第3曲も完成しています。現在第4曲にとりかかっています」(4月8日)
という快調なテンポ。

そして作曲からひと月あまり、リボン氏の一周忌にあたる1878年5月22日に自身の指揮で演奏。
なんというスピード! 何者じゃこの人。

適当に書きなぐったやっつけ仕事かと思えばさにあらず、たいへん見事に構成された、30分ほどの堂々たる作品。
とくに最終曲「アニュス・デイ」は、甘いメロディによる天上の響き。
フォーレのレクイエム(1888年初演)にも劣らない清新な祈りの音楽となっております。

 サン=サーンス:レクイエムより「アニュス・デイ」
 

これほどの曲をたった8日で・・・。
まあ事前に構想は練っていたのでしょうけれど、やっぱり凄い。

ところでサン=サーンス、じつは無神論者でした。

「私は完全なる無神論者です。 少年時代は信心深かったのですが、成長につれて信仰は薄れました。
 いま、神は信じていませんが、心は極めて平穏です。
 しかし、宗教の意義は評価しています。 人類のために必要なものであり、私はそれを尊重します」
(1914年の書簡)

・・・当時としては進んだというか、クールでクレヴァーな人ですね。
よくもまあ教会のオルガニストやってたなあと思いますが、仕事として割り切っていたのでしょうか。
リボン氏の遺産をもらったらあっさり退職しました。

つまりこの曲は、「無神論者が作ったレクイエム」なのです。
わりと珍しいと思うのですが。

さて、「レクイエム」初演後まもなく、サン=サーンスを悲劇が襲います。
二人の幼い息子が、わずか数週間のうちに、一人は事故で、一人は病気で亡くなってしまうのです。

「私は悲しみで打ちのめされました。 しかし、私が信仰を失ったのはこのためではありません。
 それ以前から私は無神論者でした。 むしろ悲しみは、ことによると私の信仰を回復させていたかもしれません。
 その可能性はありましたが・・・。」
(1914年の書簡)

結局彼は、神を信じることなく、晩年はエジプトや北アフリカの風物に惹かれ、旅に明け暮れ、1921年、アルジェリアで客死しました。

(11.6.26.)

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