藤谷治/船上でチェロを弾く
(マガジンハウス 2011年)
Amzon.co.jp : 船上でチェロを弾く
あれは忘れもしない2009年だったか10年だったか(←忘れとるやないか!)、
藤谷治「船に乗れ!」という小説を読んで、えらい目に会いました。
音楽高校を舞台に、人生の重さ・厳しさ、若さゆえの愚かさ・残酷さを容赦なく描いた大傑作長編。
読後すっかり打ちのめされた私は、
作中で取り上げられるメンデルスゾーンのピアノ三重奏曲第1番と、バッハのブランデンブルク協奏曲第5番を聴くと
胸を締め付けるような痛みに襲われるという症状に数ヶ月間も悩まされ、ほとほと迷惑いたしました。
いやホントに狭心症かと思いましたよ。
最近文庫化されました。 どうぞお読みになってください。
あのせつなくも辛いストーリーに悶絶落涙七転八倒する人が、これから全国で増えると思うと心躍ります。
さて、その藤谷治さんの最新作は音楽エッセイ「船上でチェロを弾く」。
タイトルから想像されるとおり「船に乗れ!」の裏話がたっぷり収録されています。
主人公・津島の生い立ちは、著者そのものだったんですね、やっぱり。
「フィガロの結婚」をイタリア語の歌詞で全曲そらで覚えていたなんて、
凄い・・・というか、なんというこまっしゃくれたガキでしょう! 津島のモデルだけのことはあります。
また昨年、藤谷さん愛用のチェロが盗難にあった話は「船に乗れ!」読者の間で大きな話題になりましたが、その顛末も詳細に述べられています。
チェロが無事に戻って本当に本当に良かったです。
そして意外に(?)読みごたえがあるのは、藤谷さんのハイドン論とモーツァルト論。
「ハイドンはユーモアによって偉大さを獲得した」(27ページ)
という一節には深く共感いたしました。
また、モーツァルトがチェロのための曲を書かなかったのは、
「チェリストの友達がいなかったからだと思う」(108ページ)
のも、納得です。結局それだけのことなんでしょうね、残念ですが。
文章は平明ですが、音楽に関する見識はさすがに深くて高いです。
なかでも、
「芸術家の、他の芸術家に対する酷評や無理解は、ひとつの見識である。それも確固たる見識がなければ成り立たない」(203ページ)
にはハッとしました。
なるほどです、サン=サーンスとドビュッシーの確執は、とどのつまり
「両雄並び立たず」
ということだったのかもしれません。
あと、「アンダンテ・モッツァレラ・チーズ」を「ある有名な音楽作品をもとに書かれている」(138ページ)とあるのは
「フィガロの結婚」ですよね。
ところで、船に乗ってチェロを弾く話はどこに出てくるのかなと思いながら最後まで読んだのは私だけでしょうか。
(11.3.31.)
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