メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲第1&2番
(スターン:vn ローズ:vc イストミン:pf)



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Tower@jp : メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第1番&第2番


1月は仕事がなかなかハードスケジュールで、体調くずさなければいいけどなあ、と思っていましたら、とうとう月末に風邪をひいてしまいました。

先週、職場の新年会で中華料理たらふく食べて、ビールぐびぐび飲んで、
おまけに湯冷めして寝たのが原因と思われ(←仕事のせいじゃないんか!)きれいさっぱり自業自得なので仕方ありません。
咳と鼻水の連続攻撃にチョーうんざりしておりますが、熱はないのでインフルエンザではなくただの風邪でしょう。
せめてセキコンコンが治まってくれれば・・・と思いながら、マスクをかけて仕事しています。


さて、ここ2ヶ月ほどメンデルスゾーピアノ三重奏曲第1番 作品49(1839)を聴き倒しています。
藤谷治「船に乗れ!」という小説の中で、死ぬほど切ない使い方をされている曲です。
以前から好きな曲ではありましたが、聴けば聴くほどいいですねこれ。
あまりの切なさに、いまだに聴くたび悶絶していますが、それでも聴かずにいられません。

小説で使用されているのは、カザルス・トリオが1961年にホワイト・ハウスで行ったコンサートのライヴ録音。





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ただし、このディスクは小説「船に乗れ!」の登場人物たちも、

 「でもあれ、録音が古すぎるよねえ?」
 「ライヴだしねえ」僕も同意見だった。「チェロばっかり聴こえてくる感じ。多分マイクがカザルスの近くにしか、置いてなかったんじゃない?」

                                                                       
 (「船に乗れ!」第1巻205ページ)

と言っていまして、確かにあまり聴きやすいものではありません
演奏自体は素晴らしいし、歴史的にもたいへん価値のあるライヴですが。

私がもっぱら聴いているのは、
アイザック・スターンのヴァイオリン、レナード・ローズのチェロ、ユージン・イストミンのピアノにより1966年に録音されたディスク。



この録音を特徴づけているのは、アイザック・スターンの異様なテンションの高さ

ほとんど喧嘩売ってるのかと思うほどです。
しかし、なんという華のある、艶やかで色っぽい音! 

おまけに、トリオというより「これはヴァイオリン・ソナタなんだと思って弾いて」いるような演奏で、まさに小説「船に乗れ!」をホーフツとさせます。

チェロのローズは一歩下がって、スターンをバックアップする姿勢。
逆に、売られた喧嘩は買ってやるぜ! みたいな演奏してくれてたら、さらに面白かったのですが、それでは音楽が崩壊してしまうか。
また、この曲のピアノ・パートの難しさはそのへんのロマン派のコンチェルト以上と言ってもいいくらいですが、
イストミンのピアノは沈着冷静、盛り上げるところは盛り上げ、抑えるところは抑え、知的なプレイでトリオをまとめあげます。

それにしても第1楽章再現部後半以降のクライマックス(7分40秒あたりから)の熱さと高揚感、
もう鳥肌ものであります。

優しくまどろむような第2楽章も綺麗です。
「第1楽章でケンカして、第2楽章で仲直り」する素敵な演奏。

笑いさざめくように軽妙な第3楽章スケルツォを経て、力強いフィナーレへ。
ここではローズのチェロも、スターンと丁々発止に渡り合い、イストミンのピアノも熱を帯びてきて、三者入り乱れての闘争へなだれこみます。
それだけに終結部でヴァイオリンとチェロがユニゾンで第二主題を朗々と歌う箇所(27分05秒あたりから)は
「闘争の末の和解」って感じで、あまりの高揚にまたサブイボが。

いやもう聴くたびに震えが走る名演奏です。
(まさか熱出てきたんじゃないだろうな・・・)


ピアノ三重奏曲第2番 作品66(1845) は、第1番ほど有名ではありませんが、勝るとも劣らない名曲です。
ただ、第1番以上に激しく重苦しいものを秘めている作品でありまして。
全曲を貫く焦燥感・緊迫感は、聴いてるとちょっとしんどくなってくるほどです(風邪などひいてるとなおさら)。

2年後(1847年)に書かれる、悲嘆と絶望に満ちた暗黒系名作「弦楽四重奏曲第6番」を予感させます。
まったく、メンデルスゾーンの曲は幸福そうで感傷的で深みがないなんて、
誰が言ったんでしょうね。

とにかく第2番も名曲・名演奏です。 
第1番で終わりにせず、こちらも必ず聴きましょう。

(10.2.2.)


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