藤谷治/花のようする
(ポプラ社 2012年)



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<ストーリー>
有名女優・野滝繭美(のだきまゆみ)は、仕事は絶え間なくあるけれど「そろそろ私は駄目だ」と思い始めた37歳。
彼女はパーティーで投資界の寵児・桜田眷作(さくらだけんさく)と出会い、惹かれあう。
桜田にある秘密を打ち明けられたとき、野滝は言った。
「ケン、家を買おう」


「船に乗れ!」で、青春の痛みと恥辱を完膚なきまでに描き切った藤谷治
最新作は、「大人の恋愛小説」です。

 「花のようする」

盛りを過ぎた女優と、かつて巨万の富を築いたデイ・トレーダーの恋。

 ・・・なんじゃあ、そりゃあ?

都会を舞台に、セレブスタイリッシュファッショナブルブリリアントラヴ・アフェアでも描くのかあ?
林真理子じゃあるまいし、森瑤子じゃあるまいし(←覚えてますかー?)田中康夫じゃあるまいし(←作家だったんですよ)
よりによって藤谷治がなんでこんな小説を???

・・・・・・と思いながら読んでみたら、やっぱりでした。
ただの恋愛小説ではありませんでした。

 なんというか、一読した感想は地味であります。
 まあ、地味な生活では人後に落ちない、「四国のジミー」と言われる田舎者の私が言うのも何なんですが。

芸能界を描いても、華やかな面よりは、人間関係の希薄さとか仕事の厳しさに重点が置かれ、浮わついた雰囲気はありません。
虚飾をはぎとった後にあらわれる「本質」を描いている、といえるのかも。
登場人物を名前(繭美・眷作)でなく、あえて姓(野滝・桜田)で呼ぶのも、ある種の厳しさを醸し出します。

小説のメインとなるイベントは野滝と桜田が二人で住む家を買うこと。
考えてみればそれだけの話です。
孤独に人生を闘ってきた二人が、家族となり、家を持つ。
震災をはさんで連載されたことも影響しているのでしょうか、人と人が出会い、ともに生きてゆく姿はシンプルで美しい。
一種の「生への応援歌」であります。

表面的にはそうなんですが、あちこちに仕掛けられたひっかかりや謎も、気になります。
この小説の深層にはなにかが潜んでいます。
「船に乗れ!」が、青春小説の皮をかぶった懺悔の書、あるいは哲学小説だったように、
この「花のようする」も、恋愛小説の皮をかぶった何か別のものであることは、
我が家の長女が女子高生の皮をかぶったオッサンであることと同じくらい確実なのだよワトソン君。

謎のセールスマン、何かに導かれたような運命の家との出会い、不思議な地下室、
垣根の木をすべて抜いてしまった先住者・・・。
「花の擁する」家の庭に咲き誇る薔薇たち、蕎麦辞典、戸隠五社巡り・・・。
これらのアイテムが何を意味するのか、幾度も読み返して考えました。




 ・・・ようわかりませんでした!


まあ、読んだ人それぞれに考えてくださいということでしょう・・・(←丸投げかい!)
恋愛小説であり、ファンタジーであり、お仕事小説であり、哲学小説のようであり、ホラーっぽくすらあり・・・、
重層的に読める力作です。
もちろん、洒落たラヴ・ストーリーとして単純に楽しんでもまったく問題ないと思います。
ラスト・シーンは光輝くようで、読後感はとても幸福です。

(2012.3.20.)


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