藤谷治/ニコデモ
(小学館 2022)





昭和初期、裕福な実業家のもとに生まれ落ちた瀬名ニコデモ
眉目秀麗、神童の名をほしいままにする彼は父親の命令でパリへ留学。
しかし音楽に己の生を捧げようとするニコデモは、親に内緒で大学を辞め音楽教師の門を叩く。
教師から吸収した音楽の知識を我がものとし、ピアノ演奏でも万人を魅了するが、なぜか自らの手で作曲することができない。
やがて第二次世界大戦がはじまり、ニコデモの運命も時局に翻弄されてゆく・・・。
物語は語り手をくるくると変えながら100年の時をこえる。


 藤谷治/ニコデモ

ニコデモ? 二個でも? ふたつで十分ですよわかってくださいよ?

奇妙なタイトルからは内容まったく推測できません。
キリスト教の聖人の名前ですが宗教小説ではありません。
読み始めてもしばらくはどんな話なのか見えません。
上記の内容紹介も物語のほんの最初の部分。
音楽小説の面はありますが、一要素にすぎません。

 いわば闇鍋小説。

いったいどこに連れていかれるのかわからないスリリングな読書を満喫できます。
こういうの大好きなんですよワタシ。
ただし、ストーリー展開があらかじめ予想できるパターン通りのお話じゃないと不安な方にはオススメできません。
一部、ゲーテの「ファウスト」を連想させる部分がありますけどね(「ファウスト」読んでませんけど〜)。

語り手は次々変わるし、物語の舞台も北海道、パリ、インドシナ、東京とダイナミックに移動。
文体も変幻し、交響曲の楽章が変わるような印象。

主人公ニコデモを狂言回しに、たくさんの登場人物が出てきますが、皆さん個性たっぷりでキャラが立ってます。
人々は出会い、愛し、別れ、生まれ、闘い、死に、100年を超える時がしなやかに流れます。
物語は複雑ですが文章は軽妙で読みやすく、快調なテンポで読み進められました。
そして終盤に至って数多の伏線がある一点に向かって収束、高揚感あふれる救済と奇跡が立ち現れます。
各楽章で呈示された主題がコーダでひとつに融合する交響曲のようです。
綺麗なエンディングに、読後感も爽やかです。

とはいえ振り返ってみると大げさに構えた話ではなく、結局は一つの家族の歴史だったりするんですね。
それを多彩な語り口で読ませる、著者藤谷治の洗練された小説技巧が満喫できる傑作です。

(2022.03.25.)


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