バッハ/フーガの技法 より
グレン・グールド(オルガン、ピアノ) 1962録音



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Tower : Bach The Art of Fugue


グレン・グールドのバッハといえば「ゴールドベルク変奏曲」が一番有名ですが、じつはグールドが一番好きだったバッハの曲は「フーガの技法」
コンサートをしていた頃から好んでとりあげ、1964年4月10日の最後のコンサートでも弾いています。

しかしこれ、変な曲ですよね。
だいだい、ひとつのテーマに基づくフーガを18曲並べられてもなあ・・・。
おまけにそのテーマが、色気がないというかそっけないというか。

 フーガの技法よりコントラプンクトゥスT(グレン・グールドではありません)
 

・・・なんですかこの辛気臭いテーマは。
天才的メロディ・メーカーのバッハをもってすれば、お洒落で可愛いテーマでも、心浮きたつ楽しいテーマでも、ダイナミックで雄大なテーマでも、自由に作れたはずなのに。
絶対、わざとですね。
要するに、あえて無機的で感情のこもらないテーマを使うことで、純粋に「フーガ」という形式そのものを極めてみたかったのでしょうね。

さて、このCDですが、
前半はオルガンによるコントラプンクトゥス(フーガのこと)第1〜9番。
グールドによる唯一のオルガン録音です。
期待通りの奇妙な演奏、やたらスタッカートしてます。
なんでオルガンでこんなにプチプチ音を切るかなあ。
オルガンでもノン・レガートにこだわるグールドさんです。
しかし聴いてるうちにはまってきます、楽しくなります。

 透明で精巧きわまりない響きの宇宙。
 無限に続くクリスタルの迷宮のようです。

でもうっかり聴きこんじゃうと、しだいにアブナイ気持ちが芽生えてきます。

 ・・・そもそも音楽で感情をあらわそうとか、文学的な内容をあらわそうとかいうのは、不純で余計なことではなかろうか。
 音楽はそれ自体で自立しているじゃないか、音さえあれば、他には何もいらないのじゃないか。
 ああもうベートーヴェンの人間臭くて汗臭いこと、うっとうしいぞっ!
 モーツァルトでさえ、音楽に「感情」がからみついているぞっ!
 ショパンなんかもう論外! (ちなみにショパンはグールドの一番嫌いな作曲家でした)。

・・・となってしまうのです。 
これぞ「グールドの毒」、社会復帰にはしばらくかかります。

一番キャッチーで盛り上がる、コントラプンクトゥス第9番でオルガンはおしまい。
なんでも、慣れないオルガンを弾きすぎて腕だか肩だかを痛めていまい、残りの曲の録音は断念したんだとか。

あとは、ピアノによる演奏がいくつか収録されています。
これらもまた聴くものの過剰な思い入れを拒絶するような、美しくも抽象的な音の幾何学です。
未完のコントラプンクトゥス第14番の神々しいまでの遅さそして重さ。
しかしそれは233小節目で突然に中




















            ↑
(「フーガの技法」にならっていきなり中断してみました。)


 フーガの技法よりコントラプンクトゥスW(グレン・グールド 放送録音)
 



ところで、You Tube で見つけた、このコントラプンクトゥス第9番、なかなかカッコイイです。
 ↓
 

(08.5.19.)


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