グレン・グールド/未完のイタリアン・アルバム
(グレン・グールド・エディション Vol.42)
(SONY SRCR 1855、国内盤)
Amazon.co.jp : 未完のイタリアン・アルバム
サラ・トゥーストラ(8歳)へのインタヴュー(ベルリン、1999年)
「サラちゃん、グレン・グールドの、<小フーガと小プレリュード>を愛聴してるんだって?」
「うん」
「どうして?」
「だって、音のツブツブが気持ちいいじゃん」
(明石正紀氏のエッセイより、KAWADE夢ムック「グレン・グールド」 172ページ 河出書房 2000年)
私、一応、グレン・グールド・ファンのつもりでして、
とくに彼のバッハのディスクはほとんど全部集めているつもりでいたのですが
1997年に発売されたこの「未完のイタリアン・アルバム」は、つい最近まで未聴でした。
以前から、良いアルバムだとは聞いていたのですが、何となく買いそびれていたのです。
やっと手に入れたのですが(そんな大げさなものじゃない、近所のCD屋にありました)確かにどれも良い演奏です。
内容は、A.マルチェッロの「オーボエ協奏曲」のピアノ独奏版(バッハ編曲)、
同じくバッハによる「アルビノーニの主題によるフーガ」が2曲、
スカルラッティのソナタが3曲、C.P.E.バッハの「ヴュルテンベルク・ソナタ第1番」、
バッハの「半音階的幻想曲(フーガはなし)」、「イタリア風アリアと変奏 BWV989」などです。
冒頭のマルチェッロの協奏曲がまず素晴らしい。
バロック音楽好きにはおなじみの曲ですが、ピアノ・ソロで聴くのは初めて。
グールドらしい、ノン・レガートで曲の対位法を鮮やかに浮かび上がらせてくれる演奏で、随所に即興的な修飾を加えつつ軽やかに弾いています。
マルチェッロ(バッハ編)オーボエ協奏曲・ピアノ独奏版
第2楽章では、得意のうなり声が絶好調。グールド氏、このレコーディングは相当のっていたようです。
(グールドは調子に乗って演奏に没入すればするほど大きなうなり声をあげたとか)
もっともグールドについてよく知らない人がこのトラックを聴くと「気味が悪い」と思うかも。
そういえば、「ゴールドベルク変奏曲」を聴いた人が、かすかに聞こえるこのうなり声を
心霊現象か何かと勘違いして、ふるえあがってCD屋に返品したという話を聞いたことがあります。
第3楽章はまたいきいきとしたノリの良い演奏。
両手の対位法が、「インヴェンションとシンフォニア」のアルバムを思い起こさせます。
アルバムの中盤、スカルラッティのソナタもとても良いです。
3曲しかありませんが、ホロヴィッツとも違った、グールド独特の美を感じさせるスカルラッティ。
グールドにはもっとスカルラッティを録音してほしかったですね。(嫌いだったという噂も)
C.P.E.バッハのヴュルテンベルク・ソナタは、初めて聴きましたが、なかなかドラマティックな曲。
バッハの「イタリア協奏曲」(これはすでに名演として有名な1959年録音)に続く、「半音階的幻想曲」が素晴らしいです。
この曲は本来「半音階的幻想曲とフーガ BWV903」なのですが、フーガ部分を録音する前にグールドは世を去ってしまったのです。
曲頭から雨あられのごとく降り注ぐ「音のツブツブ」のなんと気持ちのよいこと! うなり声もよく聞こえます。
半音階的幻想曲
もっともグールドは本当はこの曲も「イタリア協奏曲」も嫌いだったそうです・・・。
グールドがバッハの作品で一番好きだったのは「フーガの技法」でした。
不思議な人だ。
落穂拾い的な一枚ではありますが、グレン・グールドのファンならば必聴のアルバムですね。え、もう聴いてる・・・!
イタリア協奏曲・第1楽章
(02.1.14.)
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