シェーンベルク/ピアノ独奏曲全集
(グレン・グールド 1958〜65録音)




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「グレン・グールドといえばバッハ」

これは「讃岐といえばうどん」 「福岡といえば明太子」と並び称される鉄壁の組み合わせでありまして、
「グールドのバッハは良いねえ」と言っとけば、とりあえず誰からも文句は言われません。

ところで、グールドがバッハと同じくらい高く評価し、ほとんど偏愛していた作曲家が、

 アルノルト・シェーンベルク(1874〜1951)

であります。
必殺技「十二音技法」をひっさげて二十世紀の音楽に真っ向から切り込み、新しい地平を切り開いた人ですが、
はっきり言って人気はさっぱりです、顔もなんか怖いし。

 

しかしシェーンベルクとバッハには共通点がありまして、それは「抽象的であり、対位法を好み、センチメンタルでない」こと。
要するに「感傷を排した論理性の音楽」ってことですが、いかにもグールドが好みそう。
グールドは音楽にロマンとか文学とか物語性とか感情を持ち込むことを嫌悪しました。
大嫌いだった作曲家はショパンとシューマン。
どちらもほとんど録音していません。

しかしシェーンベルクに関しては、独奏曲のみならず室内楽・歌曲・協奏曲などピアノを含む作品のほとんどを録音しました。
このCDは、ピアノ独奏曲をすべて収録したもの。
CD1枚にきっちり入るおさまりの良さが、なんだか嬉しいです。

ピアノ組曲 作品25 より


耳で聴く抽象画。
ひやりとした鋭敏な耳ざわりが心地よいです。
モダン・ジャズのように聴こえる瞬間もあります。
ビル・エヴァンズのソロ・アルバムに、こんな響き、なかったっけ?
焼肉屋やショット・バーのBGMにまぎれこませても、意外とイケたりしませんかこれ?

5つのピアノ曲 作品23 (ジャズの一種だと思って聴いてみよう!)


グールドの演奏はさすがに完璧。
徹底的に明晰で、細部をくまなく響かせ、なめらかなソノリティも充分。
無機的で硬質な響きのなかに、ヴィヴィッドなうたごごろが結晶化して、キラキラ光を放っています。
じっくり聴いていると、不思議なスリルを覚えて耳が冴え冴えしてきますが、
BGMとして聞き流してもOK、決して空気をかき乱したりせず、時間の中に吸い込まれてゆく、非常に上質な音楽です。

(2018.05.22.)


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