田中希代子 伝説の名演シリーズ(2019発売)

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栄光と悲運のピアニスト、田中希代子(1932〜96)のライヴ録音が一度に4枚も発売されました。
ニッポン放送のラジオ番組「新日鉄コンサート」のために行ったライヴで、1964年という絶頂期の録音。

さっそくショパンのピアノ・ソナタ第2番から聴いてみます。
冒頭から力強い打鍵、スケールの大きな響き、速めのテンポで野生の奔馬のように駆け回ります。
音が生き生きと飛び跳ねているようです。
でも荒っぽいだけの演奏ではありません、速いパッセージでは一つ一つの音は綺麗に粒立ち、強奏で和音が濁ることもありません。
勝手気ままに弾いているようで実は隅々まできっちりコントロールされています。
スローな部分ではテンポを落として繊細な抒情がこぼれおちるようなみずみずしさに魅了されます。
速い部分とのメリハリもくっきりです。
そして妖しくも謎めいた第4楽章の、正確無比かつデモーニッシュな解釈。

飽きるほど聴いたはずのショパンのピアノ・ソナタが、はじめて聴く曲のように感じられる新鮮な体験。
松田優作も「なんじゃあこりゃあ」と起き上がりそうなくらい刺激的です。
聴衆もフライング気味で拍手しちゃってますが、まあ無理もないですね。
こんなんナマで聴いたら血圧上がるわ。

次に収録されたバラード第1番がまた超壮絶。
テンポ・強弱を自在に操る魔法のような爆演で、めちゃくちゃ激しいにもかかわらず全ての音が明晰で表情豊か。
自由奔放の限りを尽くしながら音楽性にも溢れた名演で、ホロヴィッツも裸足で逃げ出しそうです。

ところが次のハイドンのソナタは一転、すっきりとした軽やかな足取りで宝石のような音の粒を丁寧に並べてゆきます。
情念あふれるショパンとのギャップが見事で、別人の演奏かと思うほど古典的で端正。
これ一枚で田中希代子の表現の幅広さを実感できます。

4枚すべて音楽的センスの塊のような、凄味すら感じる演奏ばかり。
ライヴということもありやや粗削りなことは否定できませんが、録音当時田中希代子はまだ32歳。
この稀有な才能と唯一無二の個性がどのように円熟してゆくのか、その境地を見届けることが叶わなかったのは痛恨以外の何ものでもありません。

じつは4枚いちどにオトナ買いして、全部聴ききれるかちょっと心配だったのですが、結局一日で聴いてしまい、
ただいま「田中希代子もっとくれえー!」とじたばたしてます。

埋もれた録音、まだあるんじゃないかなあ。
CD化熱望です。

(2019.10.12.)


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ショパン/練習曲 作品25-8(このCDの録音ではありません)



上皇后美智子陛下のお言葉
「希代子さんの演奏は、私の心の支えでした」


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