ビーバー/ロザリオのソナタ
(レイチェル・ポッジャーほか 2015録音)



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ハインリヒ・イグナツ・フランツ・フォン・ビーバー(1644〜1704)の「ロザリオのソナタ」といえば、
二十世紀の頃はちょっとした秘曲あつかい、知る人も少なければCDも少なく、
深夜に独りで聴いていると隠れキリシタンにでもなったような気がしたものです。

まあこの曲は聖母マリアの受胎告知から被昇天、戴冠までを音で描いた描写音楽なので、
たしかにキリシタンはキリシタン・・・なのですが聴いているうちに宗教的な面はどうでも良くなってきます。

 とにかく音楽として素晴らしすぎるのです!

 ソナタ第1番「大天使ガブリエルによる聖母御身籠りのお告げ」
 

その後徐々に人気が出て、この曲を取り上げるヴァイオリニストも増えました。
とはいえ16曲ものソナタをまとめたCD2枚に及ぶ大曲だし、
1曲ごとに異なるスコルダトゥーラ(変則調弦)が指定されるめんどくさい曲なので、全曲録音はなかなか大変な模様。
ましてライヴでやろうものなら、さまざまな調弦のヴァイオリンをあらかじめ用意しておく必要があります。
よくもまあこんな妙ちきりんな曲を作ったものですが、にもかかわらず挑戦するヴァイオリニストは続々と現れます。

 とにかく音楽として素晴らしすぎるのです!

イギリスを代表するバロック・ヴァイオリニスト、レイチェル・ポッジャーの録音は、暖かさと丸みを帯びたなめらかなビーバー。
エキセントリック成分や刺激成分は控えめに、連綿たる抒情の世界が展開されます。
滴るような艶を含んだ美音で随所に即興的な装飾を入れ、「お、ここはこうくるか」と思わせる遊び心も。
上品・洗練系の「ロザリオのソナタ」として、最右翼に御鎮座いただきたい演奏です。

 ソナタ第10番「十字架にかけられるキリスト」
 

楽器編成はヴァイオリンに加え、テオルボ(またはアーチリュート)、オルガン(またはチェンバロ)、チェロ(またはヴィオラ・ダ・ガンバ)のオーソドックスな四人編成。
優美なソノリティを堅持しながら、どこまでも明晰です。
よどみなく流れながら、細部もくまなく響かせます。


なお、「こんなお上品な演奏、聴いてられるかー!」と仰る向きにはグナール・レツボア Gunar Letzborの録音をおすすめします。
呪術的なまでに泥臭く、隈取りして見得を切ってるような濃い演奏で、これも大好き。
さまざまなアプローチを許容する、懐の深い名曲ですね。

「ロザリオのソナタ」、ホントに素晴らしい名曲です。
いくら聴いても聴き飽きません・・・。

(2019.06.15.)


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