バッハ/無伴奏チェロ組曲
(ミッシャ・マイスキー 1999年)



Tower@jp : Bach: 6 Cello Suites No.1-No.6

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あざといまでにフリーダム


みんながみんな絶賛するものに対して、なんとなく斜に構えてしまうへそ曲がりであります。
とくにクラシックのCDはそう。

評価の定まった名曲を評価の定まった巨匠が演奏した、評価の定まった名盤なんて、聴いて面白いんでしょうか。

 ・・・いやじつは案外面白かったりするのが音楽の奥深いところではあるのですが、
 人によって激しく評価の分かれる演奏、というのにも興味をそそられます。


さて、ミッシャ・マイスキーバッハ/無伴奏チェロ組曲(1999年録音)。


「素晴らしい演奏!」と絶賛する人がいる一方で、「ひどい!」と酷評する人も少なくありません。
これこれ、こういうのを聴きたいんですよー。
一体どんな演奏なのでしょう???

第1番のプレリュードは非常に速いテンポで始まります。
「さすがはマイスキー、指が回るなあ」と思っていると、途中から徐々にテンポを落としてきます。
その後もフレーズごとに速くなったり遅くなったり、強音になったり弱音になったり、大胆極まりないアーティキュレーション。
聴きなれないアクセントや装飾音が入ったりします。
それらはバッハの音楽が求めているというよりは、

 マイスキーが好き勝手にやってる

ようにしか聴こえません。

  組曲第1番 プレリュード
 (なんじゃあこりゃあ?!)

つまり「バッハの無伴奏」というよりは「マイスキーの無伴奏」
これを「痛快!」と思うか、「バッハへの冒涜!」と思うかですね。

私は・・・・・・ひっくり返って笑ってしまいました!
そもそも、ここまでやってもバッハはバッハ、その本質は微動だにしていません。
「こういうのもありなんだー!」
清々しく感動いたしました。

盛り上がるところはロマン派の曲みたいに大見得を切り、
速い曲はさらにテンポを速めて疾風のように駆け抜け、
スローな曲では息が絶えそうなほどの弱音で瞑想的な響き、あるいは重厚な嘆きの歌をじっとりと歌います。

もちろんテクニックはサイコー、どんなに速く弾いても、音の粒が全く濁りません。
「グレン・グールドのチェロ版?」と一瞬思ったり。

「譜面に忠実でないから、お手本にはならない」と思いきや、じつは非常に参考になります。

 「ここで急にテンポを落としたらこんなに盛り上がるのか!」
 「ここは弱音で弾くところだけど、フォルテで弾くと聴いてる人がびっくりして面白いぞ!」


真似をすると、技術が伴わないので先生に「なんじゃそりゃ?」という顔をされていとをかし。

真面目で正統的なフルニエの旧盤などとは真逆の演奏ですが、これはこれでとっても大好きな演奏になりました。

 第3番 プレリュード
 

(2013.7.13.)

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