ファニー・メンデルスゾーン/室内楽作品集(ピアノ三重奏曲 ほか)
(トリオ・ハービッヒ 2021)



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Tower : ファニー・メンデルスゾーン/室内楽曲集

<曲目>
ピアノ三重奏曲ニ短調 作品11
ヴァイオリンとピアノのためのアダージョ
チェロとピアノのためのカプリッチョ
ピアノのための歌 変ニ長調 作品8-3

TRIO HARBICH
羽賀美歩:フォルテピアノ 高橋奈緒:ヴァイオリン 高橋麻理子:チェロ


夫ウィルヘルム・ヘンゼルによるファニーの肖像


日本人による、ファニー・メンデルスゾーン/ピアノ三重奏曲のCDって初めてじゃないでしょうか。
しかもピリオド楽器使用です。

ファニー・メンデルスゾーン(1805〜1847)はフェリックス・メンデルスゾーンの姉で、弟に勝るとも劣らぬ音楽的才能の持ち主でした。
しかしメンデルスゾーン家は銀行を所有するほどの大富豪、深窓の令嬢であったファニーは表だった音楽活動は禁じられ、弟の活躍を横目に欲求不満をつのらせていました。
そのせいか彼女の作品は激しい情熱とパッションにあふれ(同じ)、エモーショナルで情緒豊かで(同じだろ)、しかも弟よりプログレッシブで進歩的だったりします(だから同じじゃ)。
ピアノ三重奏曲ニ短調 作品11は、そんなファニーさんの最高傑作であり、弟のふたつのピアノ三重奏曲にまったく負けていません。

 私この曲大好きで、以前このような記事を書いております、ぜひご一読のほど。

トリオ・ハービッヒの演奏、「熱くて濃い」です。
もともとファニーが持てる情念のすべてを音符に叩き付けたような情熱と憧憬と諦念のこもった作品であり、普通に弾いても相当熱いんですが、
さらに隈取りをして大見得を切るような身振りの大きな演奏で、テンポはややゆっくりめ、重厚な解釈です。
思わず、「いいぞ、もっとやれー!」とヘドバンしてしまいました(←危ないやつ)。
1835年ウィーン製のフォルテピアノの名器「ハービッヒ」の、闇の中で灯るろうそくの炎のような仄暗い音もこの曲にぴったり。
ガット弦の響きも生々しく時に悲痛ですらあります。

 ダイジェスト (トリオ・ハービッヒによるライブ)
 

ヴァイオリンとピアノのためのアダージョは4分足らずの優美な小品で、ファニーさん18歳の作品です。
ヴァイオリン・ソナタの緩徐楽章に持ってきても聴き劣りしないだけの魅力を備えています。
ファニーさんヴァイオリン・ソナタも書いてくれたらよかったのに。

 (このCDの演奏ではありません)

つづくチェロとピアノのためのカプリッチョ(1829)は優しいメロディで始まりますが、曲名通り気まぐれに奔放に疾駆します。
彼女の内面の葛藤を垣間見るかのようであり、聴き手はどこに連れて行かれるのか、展開が読めなくてとってもスリリング。
7分ほどの曲ですが、高橋麻理子(チェロ)の骨太でダイナミックな表現もあいまって大曲のような威容を備えています。
ファニーさんチェロ・ソナタも書いてくれたらよかったのに。

 (このCDの演奏ではありません)

ピアノのための歌 変ニ長調 作品8-3 は、四つの無言歌 作品8の第3曲。
ピアノ三重奏曲とはまた違った、穏やかで優しい世界。
「無言歌集」といえばフェリックス・メンデルスゾーンですが、じつは「無言歌」のコンセプトを思いついたのはファニーであり、フェリックスがそれを頂いたという説があります。
ファニーのピアノ三重奏曲の第3楽章も”Lied(歌)”と題された無言歌です。

 (このCDの演奏ではありません)

余韻を懐かしむように静かにアルバムを閉じます。

(2021.12.18.)


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