メンデルスゾーン/無言歌集
(オルガ・トヴェルスカヤ:フォルテピアノ 1998録音)



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いちばん暗くて悲劇的な「無言歌集」!


フェリックス・メンデルスゾーン「無言歌集」
どの曲も演奏時間2〜3分、メロディは親しみやすく、それほど高度な技巧を必要としないことから、ピアノ発表会では定番です。
なかでも「春の歌」はとくに有名で、誰でも聴いたことがあるのではないでしょうか。
いわば気軽な「キャラクター・ピース」の代表格。

ところが、このオルガ・トヴェルスカヤのフォルテピアノによる「無言歌集」は、どうしてこんなに鬼気迫っているのでしょうか。
晩年のシューベルトやショパンを思わせるような黒い深淵がぱっくりと口を開けています。
フォルテピアノのほの暗く、くすんだ音色も思いつめたみたいで、哀愁と慟哭に拍車をかけます。

 作品53−3 ト短調 「胸騒ぎ」
 

このCDには26曲が収録されていますが、そのうち15曲が短調作品
48曲ある「無言歌」のうち短調作品は17曲なので、ほとんど収められていることになります。
そしてもっとも有名でのどかで能天気な(失礼)「春の歌」は入っていません。
メンデルスゾーンの暗黒面を白日の下に引きずり出そうとするトヴェルスカヤの強烈な意思を感じる選曲です。

 作品62−3 ホ短調 「葬送行進曲」
 (「運命の動機」がマーラーの交響曲第5番のように響く・・・)

本来は明るい曲である「狩の歌」でさえ、かすかに悲壮感が漂います。
楽譜は単純ですが、微妙なテンポの揺らぎ、表情豊かなアルペジオ、その隙間から得も言われぬ暗い情念が溢れ出してきます。

 作品19−3 イ長調 「狩の歌」
 

オルガ・トヴェルスカヤ(1968〜)は、90年代後半に活躍したフォルテピアノ奏者。
Opus-111というレーベルからリリースした11枚のCD(うち5枚は室内楽や歌曲伴奏)は、すべて高い評価を得ました。
しかし2001年にOpus-111naive レーベルに買収されるとリリースは途絶え、2003年以降は演奏活動も辞めてしまったようで、現在消息不明です。
残されたCDを聴くと、全身全霊を捧げるようなハイテンションの表現に、ときに息苦しさを覚えるほどですが、繊細なガラス細工のような陰影に富んだ表情づけは唯一無二。

 作品19−6 ト短調 「ベニスの舟歌 第1番」
 

 作品62−5 イ短調 「ベニスの舟歌 第3番」
 

メンデルスゾーンの無言歌をためしに聴いてみようとか、発表会の参考にしようという方は、もっと普通の演奏を聴いたほうがいいと思いますが、
「無言歌を聴いてどっぷり落ち込みたい」とか「無言歌で背筋ゾクゾクしたい」という人にはたいへんおすすめです(いるのか、そんな人?)。

 作品102−4 ト短調 「そよ風」
 (CDの最後に収録された曲。寂しげに消え入るように終わります)

(2021.09.25.)



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