ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル/ピアノ曲集 1821-46
(ソントラウト・シュパイデル:ピアノ 2021録音)



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Tower : ファニー・メンデルスゾーン/ピアノ曲集

ファニー・メンデルスゾーン=ヘンゼル(1805〜47)のピアノ曲を集めたアルバムはいくつも出ていますが、これは注目盤!

15曲中13曲が未出版作品で、11曲が世界初録音なのです。
こうした「落穂拾い的アルバム」は、内容的にイマイチなことが無きにしもあらずですが、
さすがはファニーお姉さま、良い意味で期待を裏切ってくれました。

まずは冒頭に収められた「前奏曲」(1830)。
クラシカルでロマンティックな分散和音テーマが目まぐるしく転調を繰り返しながら万華鏡のような音世界を繰り広げます。

 前奏曲 WV251
 

2曲目の「ジーグ」(1824)はバッハのインベンションに似た二声の対位法の曲ですが、凝った転調がロマン派の曲であることを示しています。
18歳のファニーが作曲の練習として書いたものと思われ、後半が主題の反行型によるカノンで始まるところなど教科書的とも言えますが、
キャッチーで品があり、独立した小品としてみずみずしい存在感を発揮しています。

 ジーグ WV127
 

この2曲を聴いて「いいじゃん」と思ったらもう手遅れ、ファニーお姉さまの魅力のとりこ
言っちゃ悪いけど弟フェリックスの無言歌より作品としてよっぽど面白いんです。

もちろんバッハ風の曲ばかりではありません。
「アンダンテ・コン・モート ホ長調」は、繊細優美のきわみ、夢見るファニーさんという雰囲気。
中間部では暗い影も差しますがふたたび晴れやかに微笑んで天に昇ってゆくようなコーダへ。
エモーショナルなうたごころが溢れんばかり、ファニーお姉さまらしい抒情的で色彩的な名曲です。

 アンダンテ・コン・モート ホ長調
 


「ズライカとハーテム」はズライカ(女)とハーテム(男)の恋の語らいを描いたゲーテの詩に曲を付けた二重唱曲をピアノ独奏に編曲したもの。
ファニーお姉さまのメロディ・センスがきらりと光ります。
なお、ゲーテとメンデルスゾーン家は交流があり、ファニーは一度だけですがゲーテとリアルで会ったことがあります。

 ズライカとハーテム
 

 二重唱曲「ズライカとハーテム」
 

「1826年2月20日 真夜中」という曲は、20歳のファニーの胸の内をとりとめもなく書き留めたような自由な幻想曲。
何か悩みでもありそうな雰囲気で始まり表情はくるくると変化、明るくなったと思ったら物思いに沈んだり、アルカイックで謎めいた風情。
この曲はたぶん発表はおろか人に聴かせるつもりもなかったのではないかと思います。

 「1826年2月20日 真夜中」
 

「無言歌 アレグロ・アジタート」は哀愁を感じさせる主題が魅力的。
無言歌というだけあって歌詞をつけて歌ったら映えそうな甘美なメロディ。
素敵な曲です!

 無言歌 アレグロ・アジタート
 

全15曲、捨て曲なし。
どの曲にもファニー・メンデルスゾーンの個性がしっかりと刻印されており、聴く者の耳を捕えて離さない何かがあります。

ソントラウト・シュパイデルはドイツのピアニストで、ファニー・メンデルスゾーンの曲を他にもいろいろ録音しているようです。
きっぱりとした意志を感じさせる誠実な表現で、細やかに神経の通った演奏を聴かせてくれます。

(2023.06.08.)


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