アルマン=ルイ・クープラン/クラヴサン曲集
(ソフィー・イエーツ)



Tower : Armand=Louis Couperin/Pieces de Clavecin

Amazon : Armand-Louis Couperin: Pieces de Clavecin

クープラン家 第三の男

ドイツのバッハ一族、アメリカのジャクソン・ファミリーと並び称される(そうかあ?)フランスの音楽一家、クープラン一族

1650年ごろ、パリから50kmほど離れたショーム・アン・ブリーの教会オルガニストの三男だったルイ・クープラン(1626〜61)が、
パリで活躍する同郷のチェンバロ奏者ジャック・シャンボニエール(1602〜72)に演奏を聴いてもらったところ気に入られ、

 「君イケてるやん、パリに来なよ!」

と誘われて、宮廷や貴族に紹介してもらったのが栄光の始まり。
ルイ・クープランは1653年に由緒あるサン・ジェルヴェ教会のオルガニストとなります。
作曲の才能も天才的だったルイですが、残念ながらわずか35歳で亡くなります。
サン・ジェルヴェ教会オルガニストの地位は弟のシャルルに受け継がれ、その後174年にわたってクープラン家が占めることになります。

ルイの甥、フランソワ・クープラン(1668〜1733)は教会オルガニストだけでなくルイ14世の宮廷作曲家・王家の音楽教師となり
フランスを代表する音楽家として君臨、「大クープラン」と呼ばれました。

さて、ルイ、フランソワに続く「クープラン家 第三の男」アルマン=ルイ・クープラン(1727〜89)は、ルイの弟の孫。
父ニコラの死後サン・ジェルヴェ教会のオルガニストを継ぎ、即興演奏の達人として人気を集めました。

 「テ・デウムではアルマン=ルイ・クープランがオルガンを受け持った。その壮麗な演奏の威厳に満ちた風格は、
  いまだかつて誰も到達し得なかった次元の高い響きで堂内の人々を感動させ、とくに最後の審判の場面の表現は見事なものだった」
            (最高法院弁護士 ラ・ウーセ氏の書簡 1769年)

 「奏でられた曲は素晴らしいものだった。彼の演奏は輝かしく、その旋律は変化に富み、抑揚のつけ方は実に巧みであった。
  彼はきわめて優れたオルガン奏者である」
            (チャールズ・バーニーの手記、1770年)

即興が本領だったせいか出版された作品は少ないですが、クラヴサン曲集には華麗な即興演奏を思わせる技巧的な作品が並びます。

アルマン=ルイの妻エリザベト=アントワネット・ブランシェは有名なクラヴサン制作者の娘で、本人も優れた音楽家でした。
そんな妻に捧げた曲がこれ、華やかですね〜。
  ↓
 ラ・ブランシェ
 

こちらはサントノーレ教会のオルガニスト、ピエール=クロード・フーケに捧げた曲と思われます。
同業者で友達だったんでしょうね。
仲良くふざけ合っているような曲です。
  ↓
 ラ・フーケ
 


とにかく、明るくて華やかな曲が多い印象です。
このCDではソフィー・イエーツの洗練された解釈と、残響多めの柔らかい録音で、ロココで雅やかでチャラチャラした(←失礼)面がとくに強調されています。
こういうの大好きです。

 雑木林 (タイトル意味不明だけど晴れやかで賑やかな曲です)
 

アルマン=ルイ・クープランはサン・ジェルヴェ教会だけでなく、
ノートルダム大聖堂、サント・シャペル、シャペル・ロワイアルなどパリの名だたる教会のオルガニストにも就任、ひとりでは務めきれないほど多くのポストを獲得しました。
そして忙しいときは自分のかわりに妻や息子や娘を派遣したそうです。
とくに妻のエリザベト=アントワネットは優れた奏者で、「彼女が代役としてオルガンを弾いても、常連の人たちでもそれに気づくことはなかった」 そうです。
教会のほうも「クープラン家の人が来てくれるんだから」ってことで納得してたのかなあ。
イベントや結婚式にミュージシャンを派遣する会社みたいですね。

さて、1789年2月1日の夜、アルマン=ルイ・クープランはサント=シャペル教会から馬に乗ってサン・ジェルヴェ教会に向かう途中で馬から振り落とされ、
頭を強打して意識不明となり翌日亡くなりました。 享年62歳。
サン・ジェルヴェ教会のオルガニストは長男ピエール=ルイが継ぎ、彼が早く亡くなった後は次男のジェルヴェ=フランソワ・クープランが継ぎました。

ジェルヴェ=フランソワがサン・ジェルヴェを継ぐのとほぼ同時にフランス革命が起きました。
革命の嵐がフランス全土を荒れ狂う中で、サン・ジェルヴェ教会の財産も革命委員会によって没収され、
クープラン一族によるサン・ジェルヴェ教会のオルガニストの地位は終わりを告げることとなります。

うーむ、諸行無常・・・。

(2023.03.04.)


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