バルバトル/クラヴサン曲集(1759)
(ソフィー・イエーツ 2011録音)



Amazon : Balbastre/Pieces De Clavecin


私、マリー・アントワネット様の音楽教師でした


クロード=ベニーニュ・バルバトルClaude-Benigue Balbastre, 1727〜99)は、フランスの作曲家、オルガン・クラヴサン奏者です。

バルバトル・・・酒場で戦闘でも始まりそうな変わった名前ですが、生粋のフランス人らしいです。

ジャン・フィリップ・ラモーと同じディジョンの生まれ、父親はオルガニストで、自分も音楽を志しラモーに師事。
1750年にパリに出て、ラモーの後押しもあり1755年に演奏会デビュー、1760年にノートルダム大聖堂のオルガニストに就任します。
1776年にはルイ16世の弟(のちのルイ18世)付きのオルガニストに指名され、王妃マリー・アントワネットにもクラヴサンを教授(あまり熱心な生徒ではなかったらしい)。
フランス音楽界の頂点に立ち、オルガン演奏には聴衆が押し寄せたそう。
まさに順風満帆、望月の欠けたることも無き我が世の春を謳歌していたバルバトルですが、1789年にフランス革命が勃発、その地位を失います。
幸運にも断頭台には送られずに済んだものの、貧困と窮乏の10年を過ごして亡くなります。
食うために「ラ・マルセイエーズ」をはじめ革命歌の編曲などもしたそうですが、どんな気持ちで編曲したのでしょう。
ジェットコースターのような人生だなあ・・・栄枯盛衰、諸行無常。


バルバトルクラヴサン曲集は、やがて来る栄光もその後の没落もまだ知らない1759年に出版されました。
全17曲からなり、各曲には献呈した相手の名前がついています。
といってもエルガーの「エニグマ変奏曲」のように曲でその人の性格を表現したわけではないようです。

 第1曲 ラ・ド・カーズ 序曲 (堂々としたたくましい曲)
 

演奏のせいかもしれませんが、優雅というよりは力強く重厚。
クープランのようにロココでチャラチャラした響きではなく(失礼)、強い意志と表現意欲を感じます。
時代的にはバロック音楽は終わりかけていて、メロディと伴奏がはっきり分かれた前古典派のスタイル。
低音部の響きがときに暗くて重く、深みのある音に吸い込まれそうになります。
長調の曲もダイナミックでエネルギッシュです。

 第4曲 ラ・モンマルテルまたはラ・ブリュノワ アレグロ (活発で明るい曲)
 

ソフィー・イエーツはいつもながら知的で冷静なアプローチ、知られざる作曲家の魅力をしっかり伝えてくれます。
歌いまわしはたっぷりとして表情豊か、とても立派な演奏です。
ちょっと真面目すぎる気がしないでもないですが・・・(おフランスの宮廷音楽なんですから)。
録音も優秀で、残響の多いアコースティックな響きは気持ちよいです。

 第7曲 ラ・クルテイユ  エア  (繰り返される同音反復に耳を引き付けられます)
 

 第12曲 ラ・シュザンヌ (ドラマティックで技巧的なロンド、傑作!)
 

 第14曲 ラ・マルゼルブ (可憐に始まりますが、後半テンポを上げてワイルドに盛り上がります、当時流行のトルコ風味がカッコイイ!)
 

フランスのクラヴサン曲として、クープランラモーに負けていないハイレベルな作品です。
なぜあまり知られていないのか不思議なほどです。

(2021.07.23.)


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