アンナー・ビルスマ/バッハ・古楽・チェロ
アンナー・ビルスマは語る(CD付き)
(アンナー・ビルスマ&渡邉順生・著、加藤拓未・編訳 Artes 2016年)




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チェロの先生にすすめられた本です。

アンナー・ビルスマ(Anner Bylsma, 1934〜2019)は、オランダ生まれのバロック・チェロ奏者。
「アンナー」という名前ですが男性です。
グスタフ・レオンハルト、フランス・ブリュッヘンらと並ぶ、「古楽ブーム」立役者の一人。
「ラルキブデッリ」という古楽器アンサンブルを率い、たくさんのCDをリリースしました。
モーツァルトのK.563とか、メンデルスゾーンの八重奏曲とか、よく聴いたなあ。
ずいぶん貢いだもんです・・・(いまはボックス・セット安く買えます)。

残念ながら、十年くらい前に病気で指が上手く動かなくなり、第一線から引退しました。
この本は、友人であるチェンバロ奏者の渡辺順生が、ビルスマを自宅に訪ね、一週間にわたってインタビューしたもの。

第1章では、ビルスマの経歴が彼自身の口から語られます。
 
 「チェロは8歳からだね。家族でアンサンブルをしようとしたとき、チェロを弾く人がいなかったから、私が弾くことになったんだ。
 (中略)なぜかと言うと、チェロは弾くときに、座っていられるだろう? 私の同僚を見ても思うんだが、チェロ奏者というのは、概して『怠け者』が多いね」
(14ページ)

若くしてカザルス・コンクールに優勝し、1962年にアムステルダム・コンセルトヘボウに入団。

 「私が好きな指揮者といえば、フルトヴェングラーだな。もし彼がコンセルトヘボウの指揮者だったら、私は一生、オケに残りたいと思っただろう。
  しかし私が在籍していた時のドイツ人指揮者は、フルトヴェングラーではなくて、オットー・クレンペラーだったんだ。
  クレンペラーとは、ベートーヴェンの交響曲のいくつかを演奏したよ。 ただ・・・・・・つまんなくてね。」
(30ページ)

結局オケは「飽きちゃって」6年で辞め、フリーのチェリストに転向 (安定した仕事を捨てるなんてと、みな驚いたそう)。
ちょうどそのころバロック音楽ブームが始まり、ブリュッヘン、レオンハルトら友人とともに古楽のスペシャリストとして名をあげてゆきます。

ビルスマの語り口は軽妙でユーモアたっぷり、偉そうなところがありません (翻訳の力も大きいとは思いますが)。
本全体に、心地良いリラックス感が漂っていて、のんびり読み進められます。

第2章は楽器の話。
バロック・チェロの第一人者だけあって、ガット弦の話には熱が入ります。

 「極端に言うとスティール弦で演奏することは20世紀の『奇行』であって、私としては、そのうちになくなってしまうことを祈っているね」(107ページ)

そ、そこまでおっしゃいますか・・・(わたしスティール弦しか知らないんですけど)。

第3章は、バッハ「無伴奏チェロ組曲」のレクチュア。
ビルスマ先生の解釈はかなり個性的、独自の説を山ほどお持ちのよう。
現代の標準的な解釈とは相当違って刺激的です。
ただしこの章だけはかなりマニアックでありまして、チェロを弾かない人にはさっぱり面白くない可能性が。

第4章は音楽について、とくに偉大なチェロ奏者でもあったボッケリーニについて熱く語っています。
私も先日、ボッケリーニのチェロ協奏曲をまとめて聴いたばかり。

 「(ボッケリーニの音楽は)野心があって、それを実現しようとするような人のための音楽では、決してない。
  彼らにとっては、物足りないし、ふつうすぎると感じるだろう。
  また『頭でっかちな人』のための音楽でもないね。 彼らは賢すぎるから」
(224ページ)

私も最近わかってきたのですが、ボッケリーニは、興奮させようとか、盛り上げようとか、哀しませようとか、そういうのとは真逆のベクトルを持つ音楽。
むしろ聴く人の気持ちをフラットに落ち着かせることを意図しているような気がします。
貴族の娯楽音楽でBGMだから刺激が強いのは御法度だったんでしょうね。
それでも随所にワザを凝らして、質の高い作品に仕上げています。
まあ、聴いてると眠くなってきますけど。
ある意味、上質の環境音楽に通じるのではないかとさえ思います。

 ボッケリーニ:チェロ協奏曲第8番・第3楽章 (ビルスマ独奏)
 

ビルスマって、権威とか名誉にはあまり興味がない、気さくな自由人みたい (指揮には全く興味がないそうです)。
楽しく読めて、音楽についていろいろ考えさせてくれる本です。
少々お高いですが、ビルスマの日本ライヴCD(初出音源)もついてます。

(2017.01.16.)

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