モーム短篇選(上・下)
(行方昭夫・編訳 岩波文庫 2008年)
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モーム短篇選〈上〉 (岩波文庫) |
モーム短篇選〈下〉 (岩波文庫) |
私はこれでモームにはまりました
以前、サマセット・モーム(1874〜1965)の「劇場」をご紹介しましたが、
相変わらず「モーム中毒」が続いています。
「人間の絆」では、欠点だらけの主人公フィリップの挫折と成長に
イライラしたり胸を熱くしたり。
「アシェンデン―英国情報部員のファイル」では、百年前の優雅で牧歌的なスパイ活動ににんまり。
なるほど「007」のルーツはこれかあ(でも結末はシニカルで哀しい)。
モームの小説を並べ、背表紙を眺めて「まだまだ読むぞ〜」とほくそ笑む、
微妙にアブナイ人になってしまいました。
全部読んでしまった時、「モーム、モームをくれえ・・・」と
禁断症状にのたうちまわりそうで心配です。
さて、こんな「モーム中毒」になってしまったのは、そもそもこの2冊のせい。
「モーム短篇選」(上・下)
全部で18篇の傑作を収録、これを読めばあなたもモームなしでは暮らせない身体になりますよ。
モームの特徴は、平明な文体と練り上げられた筋書き。
なにしろ、自分は読者を楽しませる一介のストーリー・テラーにすぎないと言って憚らなかった人ですから、
読んで楽しめることは保証付き。
オチのある短篇が多いですが、オチあり短篇の名手O・ヘンリーが基本ハート・ウォーミングなのに比べて、
モームはあくまでもシニカル。
そこには人間は矛盾に満ちた存在であるという信念があります。
「人間を見てきて、私が最も感銘を受けたのは、首尾一貫性の欠如だと思う。
首尾一貫した人など一人も見たことがない。
同じ人間の中にとうてい調和できぬ諸性質が存在していて、それにもかかわらず、
もっともらしい調和を生みだしている事実に私は驚いてきた。」(「サミング・アップ」より)
善人の中に潜む悪を描き、悪人の中に息づく善良さをを描き、
信念の人の変節を描き、軽薄な人の意外な芯の強さを描きます。
それでも私の場合、生まれてこのかた一貫して首尾一貫していないという点で首尾一貫していますけどね。
とくに面白かった作品をいくつかご紹介。
「エドワード・バーナードの転落」:
財産を失ったため、婚約者をアメリカに残しタヒチに出稼ぎに渡ったエドワード。
2年後、戻らぬ彼を訪ねた親友ハンターは、奇妙に変貌したエドワードに出会います。
「ジゴロとジゴレット」:
高い梯子の上から炎の燃える狭く浅い水槽に飛び込む曲芸で話題を呼ぶ芸人夫婦。
飛ぶのが怖くなって「もうやめたい」と泣く妻と、貧乏に戻らぬために恐れを忘れろと説得する夫。
二人の葛藤と愛情に心が熱くなります。
「サナトリウム」:
肺を病んでサナトリウムに入院したアシェンデン。
そこで見た様々な人間模様が感動的に描かれます。
(11.3.28.)
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