サマセット・モーム/片隅の人生(1932)
(天野隆司 訳 ちくま文庫 2015)



Amazon.co.jp : 片隅の人生 (ちくま文庫)

名眼科医サンダースは、中国人富豪の目の手術をするためマレー列島の南端にあるタカナ島を訪れる。
手術は成功、退屈しながら帰りの船を待っていたサンダースは、
たまたま寄港した帆船の船長ニコルズとミステリアスな美青年フレッドに興味を抱き、彼らの航海に同行することにする。
三人が訪れたカンダ島には、気のいいデンマーク人商社員エリックと、彼の恋人で農場主の娘ルイーズがいた。


モームの人生哲学がコンパクトに詰まった読みやすい長編


先ごろ、私の住むうどん県を、ゴルゴ13が訪れたそうです。

       
  Amazon.co.jp : ゴルゴ13(189) 2015年 10/13 号: ビッグコミック増刊

高松で開催されるASEAN会議を狙ったテロを、外務省に依頼されたゴルゴ13が阻止する、という内容。
今回ゴルゴは人間を撃たず、神業的射撃で爆弾の起爆装置を破壊します。
香川の風景もかなり正確に描かれていて、きちんと取材しているな〜、と思いました。
不満はひとつだけ・・・。

 「香川県に来て、うどんも骨付鶏も食べんのですかゴルゴさん!」

まあ人気店は行列必至なので、「俺のうしろに立つようなまねをするな」がモットーのゴルゴ13にはハードル高いよね。

   

となるとゴルゴ13は、そもそも行列に並ぶことができないのか、気の毒に。
旅から旅へ、銃を抱えて世界中移動するゴルゴ、ただでさえ大変でしょうに・・・。
こんど香川に来たら、ガラガラに空いてるうどん屋さんでも探して入ってね(←そこ美味しくない)。

  

さて、旅から旅へといえば、最近面白かったのがこの小説。

 サマセット・モーム/片隅の人生(1932)

50年前にいちど訳されて以来絶版になっていた知られざる長編。
モームの長編としてはやや軽めですが、モームが生涯にわたって追求したテーマのいくつかが非常にわかりやすい形で描かれています。

ひとつは人間の多面性、つまり「人間は矛盾のかたまりである」こと。
ニコルズ船長は、船が嵐に出会うと超人的な操船術と英雄的な勇気を発揮して乗員を救い、他船の日本人船員が死ねば手厚く葬ってやる信心深い男。
しかし普段はペテン師の小悪党であり、人をだまくらかして生きてきた男。
一体どちらがこの男の本質なのだろうと自問するサンダース医師もまた、腕利きの眼科医でありながらアヘンの常習者。
無神論者で死など怖くないとうそぶきながら、嵐の船では恐怖のあまりマストにしがみついてぶるぶる震えます。

もうひとつは、「人間はしょせん孤独な存在である」こと。
どの登場人物も、他人と本当の心のつながりを持つことはありません。
片方が「信頼している、愛し合っている」と思っても、それは一方的な思い込み。

 「つまり、彼は私を愛していなかったのです。彼は自分の理想像を愛していた。」(376ページ)

と、冷静に語るルイーズが、じつはいちばん真っ当なのかもしれません。

そして、「人生はあるがままに受け入れなければいけない」という「諦めによる楽天主義」ともいうべき哲学。
 
 「あなたは愛情を失った。希望も失った。信仰も畏怖も失った。それでいったい、あなたには何が残っているんですか?」
 「諦めですよ」
(362ページ)

 はたして、どんな運命が待っているのやら? 医師はふっとため息を漏らした。
 それがどんなものであろうとも、人間の想像力がもたらす最上の夢がたとえ実現したとしても、
 それはすべてとどのつまり、命がつきる最後には、ただ幻でしかないのである。
(388ページ)

「諸行無常」にも通じる考え方であり、日本人にはなじみやすそうです。

なにやら哲学的なことを書いてしまいましたが、決して難解な小説ではありません。
基調はシニカル、軽く読めるわりに内容があって、いろいろ考えさせられるのがモームの良いところ。
あまり知られていない作品ですが、初めてモームを読む方に、けっこう向いているかも。

{2015.12.6.)


  



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