サマセット・モーム/報いられたもの&働き手
Somerset Maugham/For Services Rendered(1932) & The Breadwinner(1930)
(行方昭夫・訳 講談社文芸文庫 2018)


Amazon : 報いられたもの/働き手 (講談社文芸文庫)


第一次世界大戦がイギリスの片田舎の弁護士一家に残した爪痕を描き、
反戦思想を色濃く盛り込んだシリアスな家族劇「報いられたもの」
20年間真面目にこつこつ働いてきたが、これからは自分自身のために生きようと、
ある日突然、仕事も家庭も捨てることを決心した男が巻き起こす喜劇を描く「働き手」
興行成績を度外視して、「自らの魂の満足のため」に書いた、円熟期モームの傑作戯曲二編。


先日読んだ戯曲「聖火」がとても良かったので、サマセット・モームの戯曲をもう一冊、思い切って購入しました。

 サマセット・モーム/報いられたもの&働き手

思い切って・・・?
そうなのです、値段の高さで定評のある講談社文芸文庫、300ページほどの文庫本なのに1700円(税別)もするのです!
新潮や角川なら600円くらいかなって厚さの文庫が、税込みで1800円以上ですよ!
レジでお金を払うとき、自虐的な快感が背筋を走りました(←変態かよ)。

家に帰ってニョウボに、
「この本いくらだったと思う?」
「うーん、講談社文芸文庫だから高いんでしょうね、1500円?」
「残念、税別1700円、税込では1800円超えでした!」
「ひえ〜、高い!」

と、盛り上がるのもいとをかし。
まあ、話のネタになるし、装丁は上品だし、内容は良いし・・・べ、べつに後悔なんかしてないんだからねっ!

「報いられたもの (For Services Rendered, 1932)」は、裕福な弁護士一家を描いたシリアスな家庭劇。
一家の長男シドニーは第一次大戦に従軍、負傷のため失明して帰国します。
長女イーヴァは39歳、婚約者を戦争で亡くし、独身のまま盲目の弟の世話をしています。
次女エセルは戦争中、イケメン将校に一目ぼれして結婚しましたが、じつは彼は農夫、
農作業の辛さや、夫の無教養で粗野な振る舞いにうんざりしながらも、子どもがいるので別れることもできません。
三女のロイスは26歳の美人ですが、戦争の影響で田舎にはふさわしい結婚相手がおらず、焦りを感じています。

それぞれ戦争に翻弄され、人生を狂わされてしまった家族たちですが、
おそらくモームがいちばん言いたかったのは、失明した長男のこの台詞でしょう。

「国を牛耳っている無能な愚か者に騙されたのだと信じている。
 奴らの虚栄心や強欲や愚かさの犠牲にされたと信じている。
 僕の目から見て一番けしからぬのは、奴らが何一つ学ばなかったことだ。
 今でも以前同様に虚栄心が強く、強欲で愚かしい。
 でたらめの政治を続け、そのうちにまたぞろ戦争に突入するに決まっている。」
(110ページ)

じっさいその後10年もせずに第二次世界大戦が始まるわけで、モームの先見の明というか世の中を見る目おそるべしです。
なおモーム自身、第一次大戦に従軍した経験があります。

完璧に構成された傑作戯曲ですが、やや重苦しい気がしなくもありません。

個人的に面白かったのは喜劇である「働き手 (The Breadwinner, 1930)」のほう。
真面目な株式仲買人である中年男チャールズが、ある日突然、自分が心からしたいことをやるためと称して、仕事と家族を捨てることを宣言。
彼の稼ぎで贅沢な暮らしを満喫しつつ、彼を内心で馬鹿にしていた妻と子どもたちは大慌て。
小説「月と六ペンス」(1919)の冒頭をコメディにしたみたいな代物です。
イプセンの戯曲「人形の家」(1879)は、自我に目覚めた妻が身勝手な夫との結婚を破棄する話ですが、その男女逆転版とも言えます。
親戚のおしゃまな娘ダイアナとチャールズの会話とか、好きだなあ。

 チャールズ:今晩出ていくのだよ。
 ダイアナ:ええ、あたしに一緒に行って欲しい?
 チャールズ:何の目的で?
 ダイアナ:連れが欲しいでしょ?
 チャールズ:親切だな。でも私は自分で何でもやれるのだよ。
 ダイアナ:一人だと淋しくない?
 チャールズ:十九年間結婚していたから淋しさには慣れている。
 ダイアナ:若い女は妻とは違うわよ。
 チャールズ:その通り。妻より厄介だ。     (245ページ)

この作品には、自身の離婚経験が反映していて、チャールズの妻マージョリーは、モームの(元)妻シリーを戯画化した姿とも言われているそうです。
なんとも人の悪い・・・。

モームは30編以上の戯曲を書きました。
そのうち「働き手」は最後から3番目、「報いられたもの」は最後から2番目の作品です。
こうなったら最後の戯曲である「シェピー」(1933)も、ぜひ読んでみたいもの。
講談社さんよろしくお願いします、少々高くても買いますよ!

(2018.04.14.)


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