サマセット・モーム/読書案内(1940)
Somerset Maugham/Books and You
(西川正身・訳 岩波文庫 1997)



Amazon.co.jp : モーム/読書案内―世界文学 (岩波文庫)


よみ出してみたところが、どうもおもしろくなくてよみつづけることができないというのであれば、
どうか遠慮なくよむのをやめていただきたい。
よんでも楽しくないならば、その書物はあなたになんの意味ももたないからである。

(39ページ)


以前サマセット・モーム(1874〜1965)にはまって、モームの本を大人買いしたときに一緒に買った本。
何故か手つかずだったのですが、先日ふと手に取って読み始めたら、やっぱり面白かったので。

すぐに読めてしまいそうな薄い本なのに、「読書案内」という無味乾燥なタイトルが遠ざけていたのかなあ。
原題は"Books and You"、本といかに付き合うかについて論じたエッセイでもあります。
2年前に書いた回想録風長編エッセイ「サミング・アップ」(1938)の続編的な味わい。

モームの書評はドライで切れ味抜群、褒めるのも貶すのもスパッと気持ちいいです。
当然、紹介されている本は古いし、日本ではなじみのない作家も多いのですが、
読んだことのない本の書評を読むの、けっこう好きなので無問題。
毎週、新聞の書評欄をナナメ読みして、何冊もの本を読んだ気になってる私です。

で、書評以上に面白いのが読書論の部分。

まずは、自分の感性を信じればいいという心強いお言葉。
 
 一流の批評家たちが高く評価しているある書物が、自分にとって何の意味もなさないからとて、べつに恥ずかしく思うにはおよばない。
 ただし、まだよんでいないばあいには、そうした書物の悪口は、いわないほうがよろしい。
 (16ページ)

そして、「とばし読みのすすめ」があったりします。

 とばしてよむことを知るのは、有益に、かつ楽しく読む方法を知ることである。(85ページ)

「ベストセラー論」も現代に通じるものがあります。

 わたくしは、出版後二、三年間は、ひとがなんといおうと、それにつられてベストセラーをよむことがないように心がけている。
 世間でひじょうな歓迎を受けている書物で、出版後二、三年もたってみると、
 よまないでおいても、わたくしとして一向に痛痒を感じない書物になってしまっているのがいかに数多くあるか、まことにおどろくほどである。
(110ページ)

そして、読みたくなければ無理に読む必要などありません。

 書物が、あなたの心を動かさないとか、興味をひかないとか、あるいはおもしろく思わせてくれないとかいうのであれば、
 あなたは無理にお読みになる必要は絶対にない。
 (111ページ)

要は「他人は気にするな、自分の好きな本を好きなように読みなさい」(あるいは読みなさんな)ってこと・・・と言ってしまうと身も蓋もないですが、面白かったからまあいいか。
モーム先生のスパッとした物言い、好きだなあ。

そろそろ「剃刀の刃」が新訳で出てくれないかな・・・。

(2016.07.10.)


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