サマセット・モーム/サミング・アップ
Somerset Mougham/The Summing Up
(1938年)
(行方昭夫・訳 岩波文庫 2007年)




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私は何事にも確信をいだいてはいない。
確かなのはそれだけである。
(275ページ)


サマセット・モーム(1874〜1965)の本を、一冊また一冊と読んでゆき、
ついにたどり着きました「サミング・アップ」
これは小説ではなく、64歳のモームが思いつくままに書き綴った長編エッセイ。
モーミズムのエッセンス、ここに集約! であります。

 あちこちで私と同年輩のものが死んでゆく。(中略)
 「タイムズ」の死亡欄に時どき目を走らせると、どうやら六十代が非常に危ないように思える。
 このような本を書き終える前に死ぬようなことがあれば、さぞかし口惜しいだろうと、かねがね思っていた。
 そこで急いで執筆を始めようと思った次第である。(15ページ)

・・・などと言いながら、結局91歳まで長生きするんですけどね、この人。

さて、「The Summing Up」とは「要約したもの」という意味ですが、
このエッセイ、全然要約されていません・・・。

老境に近づいた大作家が好きに語り倒す人生観・信条・回想。
もう「怖いものは何もない!」って感じですね。
内容もあっちに飛び、こっちに戻り、向こうではでんぐり返り、そちらでは繰り返しと、
体系立っているとはお世辞にも言えません。
それなのに不思議に読みやすく、頭にすーっと入ってきます。
さすがは20世紀を代表する大作家。

 およそものを書く人間で、読者が努力をしなければ書いてあることが理解できないような文章を書く人間には、
 私は昔から我慢がならなかった。(41ページ)


と言うだけのことはあります。

取り上げられる内容は、文章論、人生論、読書論、演劇論、作家の心構え、文学批評のあり方、そして哲学まで幅広く、
合間に思い出話がひんぱんに挿入されます。
飲み屋で「人生の先輩」からあれこれ聞かされる気分です。
軽く説教モード入ってますが、
文章が歯切れ良いのと、全然偉ぶっていないので、楽しく読めました。
それでも退屈すれば本を閉じれば済みますからね。

わたしは主に麦酒をちびちびやりながら読んだので、ますます気分は居酒屋のカウンター。

 「そうですよね、モーム大先生!」
      ↓
 「よくぞ言ってくださいましたモームさん!」
      ↓
 「いやー、流石にいいこと言うねアンタ」


と、飲む 読むほどにモームがトモダチのように思えてきました。
思わず肩組みたくなりました。

なお自らについてセキララに語った「自己暴露本」ではありません。

 自分の胸の内をすべて公開するつもりはない。
 読者に私の心のどこまで入ってきてもらうか、限度を設けさせて頂く。(17ページ)


とあらかじめ断られています。
こういうドライできっぱりしたところもいいですね〜。

終わりのほうは哲学的論考。
といっても難解ではありません。
人間いかに生きるべきかを、ただただ、真剣に愚直に考え抜きます。
さてその結論は・・・読んでのお楽しみですが、
モーム自身は謙遜してこのように言っています。

 こんなありきたりの結論に達したことを私は恥じる。
 効果を狙うのが好きな私なので、本書を何かはっと思わせるような逆説的な宣言で締めくくりたかった。
 あるいは読者がいかにも私らしいと笑いながら認めるような皮肉で締めくくりとしたかった。
 どうやら私の言いたいことは、どんな人生案内書でも読めるような、
 どんな説教壇からでも聞けるようなことだったらしい。
 ずいぶん回り道をしたあげく、誰でも既に知っていたことを発見したのである。(354ページ)

まあ、これは皮肉屋モームならではの照れというものでしょうね。


ところで「The Summing Up」は、大学入試や予備校の模擬試験の英語の問題として
よく出題されることで知られています。
わたしもいくつかの文章にはきっと覚えがある…はずだと思って読んだのですが、
あれ? 全然思い当るところありませんでした。
記憶力衰えてきたかな。

さらりと読めて深い本ですが、しっかり理解するためには
あらかじめモームの小説を何篇か読んでおかれることをお勧めします。
とくに、「モーム短編選」「人間の絆」を読んでおくとベストでは。

(11.5.17.)


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