サマセット・モーム/劇場(1937)
(新潮文庫)
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<ストーリー>
その美貌と天性の才能を駆使して押しも押されぬ大女優となった46歳のジューリア。
美男俳優で劇場経営者である夫マイケルと理想的な夫婦を演じていたが,
彼に満足できないジューリアは、劇場の経理を担当していた23歳のトムと不倫してしまう・・・。
じつはわたくし、近頃「モーム萌え」しております。
「モームス。」ではありません、モームです、サマセット・モームであります。
一か月ほど前に、ポプラ社「百年文庫」の「群」の巻に収録されている
モームの「マッキントッシュ」という短編を読みました。
やられました。
ウォーカーというむくつけきオッサンキャラクターの、
複雑で多面的でハチャメチャな性格にノックアウトされました。
ウォーカーを愛してしまいそうになりました(←そういう趣味はないけど)。
「モーム最高じゃん!」
つづいて岩波文庫「モーム短篇選〈上〉」
「モーム短篇選〈下)」を読んだら、
これがまた面白くて、完全にはまってしまいました。
さらに長編「お菓子と麦酒 (角川文庫)」を読み、
今回この「劇場」を読みました。
モーム64歳の作品、円熟の筆致を堪能であります。
46歳の舞台女優ジューリア・ランバートの、「自分探し」と「自立」の物語。
人間の多面性をシニカルに描くモームの筆は切れ味抜群。
生真面目でありながら奔放、自信家でありながら小心、鷹揚でありながら小意地が悪いジューリア、
なんという魅力的なヒロイン。
脇役たちもみな多面的に描かれていて、大変リアリティあります。
私などが言うのはおこがましいですが、「最高に人間が描けている」というのでしょうか。
ストーリーもテーマも、むしろ現代の読者のほうが腑に落ちるのではないかと思います。
なにしろ46歳の女優が23歳の若者と不倫するのですから。
1937年に、こんな物語を平気な顔で書いてしまうモーム、恐るべし。
「こんな時はもうあたしの生涯には二度とこないのよ。誰にも分けてやりたくないの」(374ページ)
「真実なものはただ象徴だけだわ。かれらは演技はみせかけでしかないといってるけど、
そのみせかけこそ唯一の真実だわ」(382ページ)
ラストシーンは、勝利と解放感に酔いながら、お気に入りのレストランで独りビーフステーキをほおばり、
ビールをぐびぐび飲るジューリア。
愛欲を克服して、食欲を豪快に満足させる美しい熟女の姿。
なんという洒落た結末!
私のようなオッサンも勇気づけられる小説でした。
モームは、若いころに「月と六ペンス」 「雨」を読んだのですが、あまりピンときませんでした。
未熟だったんですね、きっと。
いずれ再読してみようと思いますが、その前に「人間の絆」を読む予定。。
(11.3.2.)
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