佐藤賢一/褐色の文豪
(文藝春秋 2006年)


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<ストーリー>
「黒い悪魔」ことデュマ将軍の息子アレクサンドル・デュマは、
父親譲りの豪胆さ・集中力を武器に、パリで劇作家への道を歩み出し、
ついには大傑作「三銃士」「モンテ・クリスト伯」を著すが…。
パリ文壇を征服したデュマII世の波瀾万丈の人生!


うわ〜、アレクサンドル・デュマって、こんな人だったのですか〜。
「こち亀」の両さんに文学的才能を与えたようなシロモノじゃありませんか。
じつは「三銃士」「モンテ・クリスト伯」もまともに読んでないので、
よくわからないかも、と思ってたのですが、全然問題なかったですね。
周囲の情勢・思惑は一顧だにせず、やりたいことをやりたいようにやりまくる自然児デュマ。でも憎めない。

前作「黒い悪魔」は、主人公デュマ将軍にピントを絞った書き方でしたが、
本作は、竜巻のような文豪デュマにきりきり舞いさせられるまわりの人々をたっぷりと描きます。

マリー・ルイーズには、文学にうつつを抜かす息子が山師にしか見えません。
作家になってからも、堅実な仕事についてくれればよかったのにと思うばかり。

 せめて軍曹になってほしいと頼めば、夫のアレクサンドル・デュマは将軍になって帰ってきた。
 堅実な秘書勤めであれと願えば、息子のアレクサンドル・デュマは大作家になったという。(中略)
 が、これは幸せなんかじゃない(中略)。心配ばかりだからだ。少しも気が休まらないからだ。
(195ページ)

都会育ちのエリート、ヴィクトル・ユゴー(「レ・ミゼラブル」の著者)は、知性も教養も才能もデュマより勝っているつもり。
でも粗野な田舎者デュマほどの人気を得られないことで劣等感にさいなまれます。
「いや卑屈になることはない、自分は天才詩人だ、詩聖だ」と奮い立つのですが、結局いつもギャフンと言わされてしまいます。
もっともほとんどはユゴーの独り相撲、デュマのほうはユゴーを親友だと思っているのです・・・。
なんと、大作家ユゴー、お笑いキャラになっています。 ポケモンのロケット団みたいなノリ、と言ったら言い過ぎか。

しかし、文豪デュマも、じつはある人物の影響からどうしても逃れられずにじたばたしているのです。
それは、父・アレクサンドル・デュマ将軍

 デュマは問わずにいられなくなるのだ。(中略)果たして自分は亡き将軍と比べられる仕事ができたといえるのだろうかと。(351ページ)

なるほど、偉大な父親を持つと、子どもは苦労するのですね。 うちの子供たちも可哀相に(←こらこら)
で、そんなデュマの息子(「椿姫」で有名な作家デュマ・フィスが、きっちり父を反面教師として、
温厚な人格者に成長するのがなんだか可笑しいです。

デュマ・フィスと、文豪の旧友ルーヴァンが、文豪の墓の前で語り合うエピローグ、しみじみきます。

 「父さんは幸せでしたか」(510ページ)

デュマ・フィスのこの問いに、父はついに答えることはありませんでした。
その答を捜し求めることが、息子の人生の指針となってゆくのでしょうか。
デュマ家三代を描く三部作、第三部に続きます

(06.5.3.)

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