佐藤賢一/象牙色の賢者
(文芸春秋 2010年)



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<ストーリー>
奴隷から将軍へ成り上がった英雄を祖父に、
『三銃士』『モンテ・クリスト伯』の作者として名高い文豪を父に持つデュマ・フィス
物質的にはなにひとつ不自由ないが、私生児という出生から、父に対して愛憎半ばする想いを抱く。
父と同じく作家を志し、若くして成功をおさめながら常に偉大な父と比較され続けた男の苦悩の生涯とは。
『黒い悪魔』『褐色の文豪』に続くデュマ家3代の歴史、ここに完結。


「黒い悪魔」 「褐色の文豪」につづく、デュマ家サーガ第三部。

文豪・大デュマの息子で、「椿姫」の著者として知られる、
デュマ・フィス(1824〜95)が、ひとりで語って語って語り倒します

この人、生前は次から次へと作品を発表して大人気、
レジオン・ドヌール勲章は授けられるわ、フランス学士院の会員に選出されるわで、
作家として頂点に登り詰め、父を超えたとまで言われたそうですが、
現在はデビュー作「椿姫」以外の作品が読まれることはほとんどありません。

私ごときが言うのも恐れ多いですが、ええ、やっぱ小粒なんでしょうね、人間として。
フランス革命期に軍人として戦いに明け暮れた祖父
豪放磊落・破格にして破天荒な天才作家だったに比べると、
何というのでしょうか・・・、やはり小市民。
作品も、当時のそんな小市民の生活を描いたものが多いようで、時代が変われば読まれなくなるのは当然か。

それでも、「椿姫」執筆秘話を作者の口からじかに(?)聞けたのは興味深かったです。

それにしてもデュマ・フィス、本当にペラペラとよくしゃべる人です。
おしゃべりな男というのは信用できなくて、なーんか嫌なんですよね。

え、そういうお前もけっこうおしゃべりだろうって?

はいはい、ですからこのホームページに書いてあることなんてもう、嘘ばっかりです。
ホントですよ、へっへっへ(←どっちだ)

デュマ家三部作の完結編ということもあり、父親や祖父にもひんぱんに言及、
期せずして一種の「親子論」「家族論」となっています。
読者は、自分の親や家族と引き比べながら、19世紀の大作家親子の人生に
思いをはせることになります。
そう、この三部作、結局のところ「父と息子の物語」だったのですね。

そんなデュマ・フィスが最後にたどり着いた境地は

 「いや、人生なんて土台が滅茶苦茶なもので・・・」

この台詞も父親が言えば豪快に響いたことでしょうが、
デュマ・フィスが言うと、なんだか言い訳めいて聞こえるのが不思議。
タイトルの「賢者」というのは、一種の皮肉のようにも思えました。

前2作のような波乱万丈の面白さはありませんが、読んでいてどことなく身につまされたのも事実。
また違った意味で「読ませる」小説でした。

(10.4.17.)

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