佐藤賢一/黒い悪魔(文芸春秋 2003年)



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<ストーリー>
 サン・ドマング島(現在のハイチ)で、フランス人農場主と奴隷女の間に生まれたアレクサンドル
 恵まれた体躯を生かして、男一匹のし上がるべく、フランス軍に入隊します。
 初日から3人の上官をコテンパンにやっつけたアレクサンドル、瞬く間に勇名をはせますが、
 それでも黒人の血を引く身には数え切れないハンデがあります。
 やがてフランス革命が勃発、
 「人間は生まれながらに自由であり、権利において平等である」という「人権宣言」に感激した彼は、
 革命を成就させるために外国軍との戦いに明け暮れます。
 そんな彼をいつしか敵は「黒い悪魔」と呼ぶのでした。


巨漢、好漢、熱血漢、正義漢、ついでに好色漢。
身長189センチ、黒い肌に母親譲りの美貌、そして剣の腕は誰にも負けない。
動乱の時代を黒い疾風のように駆け抜けた、一人の英雄の物語。
今回も佐藤賢一の筆は熱い!
史実に忠実な小説であり、主人公の黒い悪魔・アレクサンドルは実在の人物。
ロベスピエール、ナポレオン、ジョセフィーヌなどの有名人も物語を彩ります。

強い男がバッサバッサと敵をなぎ倒して大活躍する話がお好きな方にはたまりません。
「三国志」関羽・張飛、隆慶一郎「一夢庵風流記」前田慶次郎のような無敵のヒーローぶり。
直情径行、熱くなると自分がコントロールできなくなるアレクサンドルですが、
自由と平等の理想に燃えながら、徐々に周りを巻き込んでゆきます。
微罪の農民をギロチンから救ったことで、革命政府派遣委員・ガストンと対峙する場面は読みどころです。

 「あなたは民主主義と仰られました。が、それは万民を奴隷に落とす仕組なのですか」(174ページ)
 私は間違っておりますか。ならば、私は共和主義者でないことになる。
 貴市民が好きなように、どうぞギロチン送りにしてもらいましょう。
 「奴隷に逆戻りするならば、もう私には生きている意味もない」
(178ページ)

このアレクサンドルの科白、カッコイイです。 いやこれはしびれますね。

最後にアレクサンドルの前に立ちはだかるのが、ナポレオン・ボナパルド
彼は口では「革命の理念を全ヨーロッパに拡げる」と言うものの、実は自分自身の野望しか頭にありません。
アレクサンドルはナポレオンの正体をいち早く見抜き、対立しますが・・・。

物語の最後には、ちょっとしたサプライズが用意されています。
アレクサンドルは実は、我々にもおなじみのあの人の○○なのでした(勘のいい人は途中で気づくはず)
楽しく読める痛快娯楽巨編です。

(04.5.24.記)

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