佐藤賢一/オクシタニア(集英社 2003年)


Amazon.co.jp : オクシタニア

13世紀・南フランス(オクシタニア地方)に起こった異端・カタリ派の隆盛と滅亡を描いた長編。
「中身の詰まった小説を読んだ!!」という満足感にひたれます。

佐藤賢一ならではの仕掛けとして、北部フランス人は標準語で話し、南部人は関西弁でしゃべくることになっとります。
こんな感じ。

 あんたはんも、しつこいでんな。こんなん、オクシタニアでは常識でっせ。
 フランス人は無知やと、それこそ笑われてしまいまっせ。
 「異端アルビジョワ派からは改宗なんか、いくらも出えしませんのや
」 (68ページ)
 
第1章の主人公、シモン・ド・モンフォールは、北部の田舎領主。
自らの境遇に満足し、かけらほどの野心も持ち合わせていなかった彼でしたが、
1208年、なかば強制的に異端との戦いに駆り出され、さらに征服した領土の統治まで任されてしまいます。
むしろ彼に体よく押し付けたかたちで、軍の本体はさっさと故郷に戻ってしまい、
シモンは、敵の残党から激しい攻撃を受けることに。
「だまされた、だまされた」。 でも歯を食いしばりながら、家族のため、正しい信仰のため、
そしてなによりも自分が生き延びるために、戦いに明け暮れるシモン。
ところが幾多の幸運に恵まれ勝ち進むうち、シモンの心の中で何かが変わってゆく・・・。

第2章では、舞台は異端が栄える自治都市トロサ(トゥールーズ)に移ります。
異端が栄えるとは言っても豊かな商業都市、人々の気風は自由闊達、
カタリ派信仰もある種ファッションのようで、カトリックとも仲良く共存していました。
しかし1217年、ついにシモン・ド・モンフォールの軍が迫ります。
富豪の息子、エドモン・ダヴィヌスは、街を守るため、
そして敬虔なカタリ派である妻ジラルダを守るため、街の総力を結集します。

 せやないと、これで最後の望みまで絶たれてもうたことになるがな。
 モンフォールいう、あの悪魔みたいな奴だけは、絶対に生かしとったらあかんねん。
(127ページ)

第3章以降は、エドモンとジラルダの愛の行く末を中心に、
カタリ派がついに撲滅される1244年までの長い物語が紡がれてゆきます。

このエドモンとジラルダ、似たような話をどっかで読んだな〜と思ったら、
まんま、ジイドの「狭き門」ですやん!(あ、うつった)
信仰にすべてを捧げてしまう女、その女を心底愛してしまう男の苦悩が、
せつない(?)関西弁で華麗に(??)つづられます。
登場人物たちの心情がストレートに伝わってくるのは、関西弁の効用か、著者の腕か。
読みながら「宗教とはなにか」「人生とは何か」じっくり考えてしまいます。

歴史小説としてだけでなく、恋愛小説としても、宗教・哲学小説としても、関西弁小説としても、ようできてはりますわ。
(03.8.18.記)

その他の「佐藤賢一」の記事
佐藤賢一/黒い悪魔 (文芸春秋)
佐藤賢一/褐色の文豪 (文藝春秋)
佐藤賢一/象牙色の賢者
佐藤賢一/女信長(毎日新聞社)
佐藤賢一/小説フランス革命 1&2巻 (集英社)
佐藤賢一/ハンニバル戦争




「本の感想小屋」へ

「整理戸棚」へ

「更新履歴」へ

HOMEへ