本屋で見たときの第一印象は、えらい分厚いなあ、でした。
じつは私は「椿姫」にはちょっとうるさくてですね、
といってもヴェルディのオペラのほうですけどね。
テレサ・ストラータス主演のオペラ映画はDVDが擦り切れるほど観たし(DVDは擦り切れないって)、
ナマでも何度か観たし、CDも数種類持ってるし、いわば好きなオペラの筆頭格です。
でも原作は読んでなかったなー。
だってストーリーは結局アレでしょ、高級娼婦が純朴なボンボンと愛し合うものの、
ボンボンの親に諭されて身を引いて、結核で死んじゃうってだけの話でしょ。
なんで500ページ近くにもなるんだろう?
古い小説だから、文章がくどくど長いんだなきっと、と思ってぱらぱらめくってみると、
新訳ということで、歯切れの良い文章、テンポの良い会話、
全然回りくどいことないやないですかー。
よし、いっちょ読んでみるか、今週は夜勤が多いから、少々長くてもその合間に読めるだろ。
と、いうわけで買いました。
一気読みしました。
いやー、良かったぁ、オペラとはまた違った面白さ。
分厚いなんて言っちゃいけませんでした、中身が濃いんでした。
オペラだけで「椿姫」を知ったつもりになってはいけないようであります。
物語は男のほう(アルマン)の語りで進み、椿姫・マルグリットの内面は直接には描写されません。
それがかえって読者の想像をかきたて、
気づいたときには首までどっぷり感情移入させられているという寸法。
アルマンはオペラのアルフレードと同じく、甘ったれのボンボンで、しかも泣き虫(解説によると79回も泣くんだそうで)。
それだけにマルグリットの凛とした気高さが際立ちます。
アルマンが頼りないのはドラマ的必然でもあるわけです。
しかしマルグリット、二十歳そこそこなんですね、なんて強い・・・。
これは著者デュマ・フィス(褐色の文豪・アレクサンドル・デュマの息子)の経験に基づいた小説です。
彼は二十歳のとき、マリー・デュプレシーという同い年の高級娼婦に惚れこみ、
1年で5万フラン(5千万円相当!)も貢いだそうです。 文豪の父親が出してくれたんですね。
でも結局は破局(そりゃそうだわな)、まもなくマリーは結核で世を去ります。
デュマ・フィスはマリーの死に大きな衝撃を受け、二十三歳でこの名作を書きました。
大デュマの小説は、今読むとさすがに大時代な感じが否めませんが(面白いけど)、
息子の「椿姫」はいま読んでも全然古臭くないです。
というか現代にこれを越える恋愛小説がいくつあるでしょうか。
オペラではヴィオレッタは死の直前にアルフレードと再会を果たすけれど、
小説ではアルマンはマルグリットの死に間に合わず、彼女は孤独に死んでゆきます。
より悲劇性が強調され、ストーリーが引き締まります。
詳細な解説も読みごたえありました。
(10.3.28.)
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