藤田真央/72 Preludes(2枚組 2024)



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ショパン:24の前奏曲 作品28
スクリャービン:24の前奏曲 作品11
矢代秋雄:24の前奏曲



矢代秋雄の「24の前奏曲」待望の新録音!!

藤田真央の新しいCD買ったよ〜」 とニョウボに見せたら
「かわいー! 顔丸い!」 って、そこですかい。

まあでも確かにゆるキャラ感ありますね (ニョウボ「ゆるキャラとは言ってない!」)。
そしてお地蔵さんっぽいですね、お供え物して拝みたくなります(←やめい)。

 72 PRELUDES

超有名なショパン/24の前奏曲 作品28
知る人ぞ知るスクリャービン/24の前奏曲 作品11
そしてほとんど知られていない矢代秋雄/24の前奏曲(1945)
24×3=72曲の前奏曲を収めた2枚組です。

矢代作品はなんと作曲者15〜16歳の作品。
2007年に赤井裕美がCDを出しましたが、とっくに廃盤・入手困難となっております。
その幻の曲が、今を時めく藤田真央の演奏で全世界発売されたのです!

藤田真央のエッセイによると、当初は矢代秋雄を録音することは考えていなかったそうです。

 裏話になるが、今回の目玉となった矢代秋雄《ピアノのための24の前奏曲》は企画の初期段階では構想に上がっていなかった。
 きっかけを与えてくれたのはキリル・ゲルシュタインだ。いつものレッスン室でショパンとスクリャービン《24の前奏曲》を録音する展望を伝えると、
 彼はふと考え込むそぶりを見せた。
 「今のプログラムでも悪くはないが、君がやる意味はなんだろう。ショパン・コンクールの歴代受賞者たちがショパン《24の前奏曲》をいくつも録音しているし、
 沢山のロシア人演奏家がスクリャービン《24の前奏曲》をリリースしている。君にしかできない何かを加えてみるのはどうだろう。
 君の案には既に魚(=ショパン)とシャリ(=スクリャービン)がある。寿司が完成するのは間違いない。だが、寿司の旨味が増すのは刺激的なわさびがあってこそじゃないのかい?」
 と助言してくれたのだ。
 その金言に目から鱗が落ち、わさびとなる存在――私にしかできない、いや私だからこそ可能な作品を探すこととなった。
 大量の音源を聴きあさり、砂を揺すって砂金を探すような作業の末ようやく辿り着いたのが、
矢代秋雄の《ピアノのための24の前奏曲》だった。
  (藤田真央のnote 2024/07/25 より)

ということです。
わたしも、ショパンとスクリャービンだけなら買いませんでした。

矢代秋雄(1929〜76)は「ショパンは私の幼いころの偶像であった」と語るほどショパンに傾倒しており、
この24の前奏曲も、ハ長調→イ短調→ト長調→ホ短調・・・と、ショパンと同じ調性順に並べられています。
第1番は全曲の開幕にふさわしい晴れやかな曲。アルぺジオが爽快に駆け抜ける様子はショパンの作品10−1を意識しているのでは?

 第1番 ハ長調
 

しかしこの曲集、ショパンの真似ばかりではありません。
驚くほど多彩な音のパレットが繰り広げられます。
第5番は同音連打がスリリングで、ロシア・アヴァンギャルドを思わせます。

 第5番 ニ長調
 

静かな曲も15歳の少年とは思えない成熟した魅力。
第8番なんて、老練の作曲家かと思わせる枯れた味わいがります。

 第8番 嬰ヘ短調 アンダンテ 舟歌のテンポで
 

第11番は、なんだかバグパイプを連想させます。

 第11番 ロ長調 沈鬱に
 

かと思えば第18番は明らかに箏を模していて、日本的情緒がほのかに薫ります。

 第18番 ヘ短調
 

最後の第24番は技巧的な無窮動曲。
ドビュッシーの「雨の庭」などを連想させるものの、すでに充分な独自性を感じさせ、まさしく天才。

 第24番 ニ短調 モルト・ヴィヴァーチェ
 

ロマン派風、東洋風、バロック風、現代風、そして舟歌、多彩な曲ぞろいで飽きさせません。
「24の前奏曲」界の隠れた傑作であります。

完成は1945年5月!
戦時中の、いつどこで誰が命を落とすかわからない状況下で、16歳の少年がどんな思いで作曲していたのか・・・。
言っては悪いですが、ショパンの亜流でしかないスクリャービンの作品11よりもずっと聴き応えがあります。
なおスクリャービンの名誉のために言っておくと、彼は生涯にわたり90曲を超える前奏曲を書きました。
後期はショパンの影響を完全に脱し、独自の幽玄で神秘的な音響の世界を作り上げ、なかには無調を先取りするものもあります。

矢代秋雄の24の前奏曲、2022年にはようやく楽譜も出版されたそうで(→Amazon)、今後広く演奏・録音されることを希望します。

そして藤田真央氏には、ぜひとも矢代秋雄の大傑作「ピアノ・ソナタ」「ピアノ協奏曲」を演奏・録音してほしいものです!

(2024.09.15.)

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