矢代秋雄/ピアノ三重奏曲



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2021年4月9日は、作曲家 矢代秋雄の45回目の命日(1929/9/10〜1976/4/9)。
初期作品であるピアノ三重奏曲(1948)を聴きました。
作曲者19歳の作品ですが、30分を超える堂々たる曲です。

第1楽章アレグロ・モデラート・エ・アジダートはドラマの幕開けのような波乱を感じさせるソナタ楽章。
フォーレ、ドビュッシー、ラヴェルをお手本にしていて、知らずに聴いたらフランス近代の作品と思うはず。
日本的な情緒は感じられませんが、なんですかこの完成度は。
若書きの未熟さはなく、3つの楽器の妖艶なからまりあいに引き込まれます。
流麗で気品ある楽章です。

 第1楽章
 

第2楽章は洒落たスケルツォ・モルト・ヴィヴァーチェ。
対位法的でキリリと明快、切れの良いリズム、きらめく音粒の群れ。
中間部は対照的に弦楽器とピアノがちょっと歪んだ歌を交わします。

 第2楽章
 

第3楽章はアダージョ・ファンタスティコ。
静かな歌がいつ果てるともなく流れ続ける三部形式の楽章。
たおやかな表情にやすらぎます。

 第3楽章
 

第4楽章はアレグロ・モルト・エ・コンフォコ。
ノリノリの荒々しいフィナーレですが、上滑りすることなく、がっちり構築されています。
3つの楽器はぶつかり合い、スパークし、魔法の化学反応が生まれます。

 第4楽章
 

19歳にしてアカデミックな作曲技法を完全に身に着けていたことがよくわかります。
その後矢代秋雄は22歳からフランスに5年間留学してさらなる研鑽を積み、古典的技法に現代感覚と東洋的エッセンスを加えた独自の音楽世界を確立。
帰国後は交響曲、チェロ協奏曲、ピアノ・ソナタ、ピアノ協奏曲(全部傑作)を発表するかたわら東京藝大作曲科主任教授として献身的に活動しますが、
1976年に心臓発作のため46歳で急逝しました(過労死?)。

ピアノ三重奏曲は東京音楽学校(東京藝術大学)の卒業作品として作曲され、1949年2月25日の卒業演奏会で作曲者自身がピアノを担当して初演されました。
ちなみに譜めくりは間宮芳生がつとめたそう。
この日は黛敏郎も卒業作品として「10の独奏楽器のためのディヴェルティメント」を発表、戦後日本作曲界を背負う二人が同時に巣立った記念すべき日だったわけです。
なお演奏会は満員の聴衆で立錐の余地もないほどだったとか。
作曲科の学生の卒業演奏会が超満員なんて想像もできませんが、戦後間もない人々には芸術に対する飢餓に似た思いがあったのでしょうか。

このCDは1982年の録音で、演奏者は田中千香士(ヴァイオリン)、安田謙一郎(チェロ)、マリー・ピュイグ・ロジェ(ピアノ)。
この曲のCDはこれしかないようです。
そろそろ新しい録音が聴きたいものですが・・・。

(2021.04.09.)


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