ヴァインベルク/無伴奏チェロ・ソナタ(全4曲)
(ヨゼフ・フェイゲルソン:チェロ 1996〜97録音)


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ミェチスワフ・ヴァインベルク(1919〜96)の4つの無伴奏チェロ・ソナタは、1960年から86年にかけて作曲されました。

控えめに言って4曲とも無伴奏チェロ曲の歴史に燦然と輝くべき名曲でありますっ!
テクニック的にかなり高度で、内容も複雑かつ屈折していますが、今後チェリストのレパートリーとして定着していってほしいもの。


第1番 作品72(1960)は、ロストロポーヴィチに献呈、同年に初演されました。
アダージョ→アレグレット→アレグロの「序破急スタイル」で書かれています。
第1楽章アダージョは、長い物語の幕開けのように、ゆっくりと何かを語るように始まります
この時点で全4曲のシリーズになるとは作曲者も予想していなかったはずですが、全曲の前奏曲にふさわしいゆったりした曲。

 (←「物語が始まる・・・」という感じです)

弱音器をつけて演奏される第2楽章アレグレットは幽霊が踊っているみたいでとってもチャーミング(?)ですが、やはり白眉は第3楽章アレグロ
野蛮なまでのエネルギーが充満したアグレッシブなフィナーレ。
ヴァインベルクにしては華やかに盛り上がって力強く終わります。
消え入るように終わらせたらロストロに文句言われるんじゃないかと思ったんですかね。

 時間のない方はとりあえずこの楽章だけでも聴いてみて!!
   ↓
 (←この躍動感!)

第2番 作品86(1964)は、ボロディン・カルテットのチェリスト、ヴァレンティン・ベルリンスキーに献呈されました。
第1楽章モデラート・ソステヌートは、ストレートなチェロの朗唱で幕を開けます。
チェロらしい雄大で幅の広い響きが素敵で、ユダヤ音楽(クレズマー)っぽい雰囲気も漂います。

 (←やはり何かを物語ろうとしているような・・・)

第2楽章アレグレットは、ヴァインベルクらしさが全開のスケルツォ。
陽気でユーモラスですが、どこかタガが外れたアブナさが匂います。
このトゲトゲした、妙に冷えた感触がヴァインベルクの醍醐味なんですよ〜(←変)。

 

第3楽章アダージョを経て、第4楽章プレストはせわしないロンド。
1:25からのピチカート、つづいてフラジョレットで管楽器のような音を出す部分、面白いです。
ショスタコーヴィチの影響、ユダヤの民族要素、ジャズ、ストラヴィンスキーっぽさなどが見事に融合し、鮮やかな手並みで整然と混在。
狂騒的でありながら、どこか醒めた感覚の屈折したフィナーレ、ヴァインベルクらしく最後は弱音で終わります。

 

第3番 作品106(1971)
第1楽章はクネクネしたつかみどころのない第一主題で開始、つづく行進曲風のメロディが第二主題となるソナタ形式。
1970年代にソナタ形式の曲とはねえ(なんと呈示部の繰り返し指定もある!)、ショスタコーヴィチでもそんなもん書いてません。
どういう意図なのかなあ・・・でも古臭さはありません、不思議な楽章です。

 

せわしない第2楽章スケルツォを経て、第3楽章レントは静かな悲しみの歌。
独特のうねりのあるメロディが、荒野を行く旅人のように淡々と流れてゆきます。
音楽としては明晰で、響きに抒情を盛ることはあってもロマンな感情に没入してしまうことはなく、どこか冷静なのがヴァインベルク。

 

第4楽章プレストはせわしないロンドですが弱音の部分が多く、あまりフィナーレらしくありません。
一応最後は力強く終わります(この時期のヴァインベルクは消え入るように終わる曲が多いのですが)。

 

第4番 作品140(1986)
第1楽章アンダンテは、第1番の第1楽章を思わせる穏やかな歌で始まりますが、徐々に緊張を高めてゆき、悲劇的な慟哭で終わります。

 

第2楽章アレグレットは穏やかな春の歌のイメージで始まります。
ただし中間部は悲痛な感じになり、不穏な雰囲気をたたえた低音の響きで終わります。

 

第3楽章アレグロ・モルトは第3番の第4楽章と似たせわしないロンド。
目まぐるしい展開は変化に富んでいて飽きません。

 


演奏者のヨゼル・フェイゲルソンはロストロポーヴィチの弟子。
「無伴奏チェロのための24の前奏曲」とともに1996年から97年にかけて録音されたこのCDはすべてが世界初録音。
ソナタ第2〜4番は楽譜も出版されていなかったので、フェイゲルソンは作曲者の遺族から手稿譜を借りて録音したそうです
(その後、フェイゲルソンや遺族の努力で2005年に出版)。

ヴァインベルクには無伴奏ヴァイオリン・ソナタも3曲あり、最近ギドン・クレーメルが録音してファンの間で話題になりました。
無伴奏ヴァイオリン・ソナタが超エキセントリックで狂気すら感じさせるのに比べると、無伴奏チェロ・ソナタは比較的穏やかで古典的。
今後、チェロ・リサイタルなどで耳にする機会も増えるのではないでしょうか(正直、無伴奏ヴァイオリン・ソナタは難しいと思います)。

そしていずれは、バッハ/無伴奏チェロ組曲と並び立つ名作と言われる日が・・・来るわけないよな。

(2022.06.17.)


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