タルティーニ/ヴァイオリン・ソナタ集(2枚組)
(エンリコ・ガッティ 2000〜2001録音)



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タルティーニ/ヴァイオリン・ソナタの名盤と言われながら、ながらく入手困難だった2枚組が、めでたく廉価で再発売されました。

ジュセッペ・タルティーニ(1692〜1770)といえば、クラシック・ファンに名前はそこそこ知られているものの、
有名曲は「悪魔のトリル」のみといういわば「一発屋」。
しかもその「悪魔のトリル」すらメロディを口ずさめる人はおそらくほぼ存在しないという、なんか気の毒な人 (私も口ずさめないよ〜)。

しかしてその実態は・・・
若いころは法学と神学を学びフェンシングの名手でもありました。
1710年に貴族の愛人の女性と駆け落ち、追手から逃れるため修道院に逃げ込みますが、
そこでヴァイオリンの腕を磨き、1721年にはパドヴァの聖アントニオ教会の楽長に就任します。
なお駆け落ち相手とはきちんと結婚し生涯添い遂げました。
1728年には音楽学校を設立、ナルディーニカンパニョーリ、マンフレディーニ、グラウンなど多くの音楽家を育てました。
音楽理論家でもあり、「差音」の発見者として知られ、論文も書いています。
差音とは周波数の異なる2つの音を同時に鳴らした時、2音の差に等しい周波数のうなりが生じる現象だそうです。
135曲のヴァイオリン協奏曲、200曲以上のヴァイオリン・ソナタを作曲しましたが、声楽曲やオペラは残していません。
生涯ヴァイオリンのスペシャリストを貫きました。

「悪魔のトリル」の逸話から、悪魔に魂を売り渡して黒魔術を駆使する魔導師のようなイメージを持たれがちですが(そうかあ?)、じつは真面目で立派な人でした。
そもそも「悪魔のトリル」は死後に出版された遺作で、有名な悪魔のエピソードもそのときにコマーシャルとして使われたもの。
いわば出版社が「話を盛った」わけですが、この逸話がなければタルティーニは忘れ去られていたかもしれないので、むしろ感謝です。


このアルバムはソナタ集 作品1(1728)と作品2(1730)からのセレクションで、「悪魔のトリル」は入っていません。
後期には古典派っぽい作品も残したそうですが、初期作品は端正なバロック・ソナタ。
奇をてらったところや刺激的なところはなく、超絶技巧をひけらかす個所もありません(重音は多いけど)、ヴァイオリンがひたすら気持ちよく歌い続けます。

 ソナタ ト短調 作品1−10「見捨てられたディード」より第2楽章 プレスト (疾走感のある哀愁が魅力的)
 

 ソナタ ハ長調 作品1−3より第2楽章 (明るい日差しのようなフーガ)
 

エンリコ・ガッティの表現力豊かでなめらかな演奏とあいまって、とっても気持ちよいです。
この人のヴァイオリン、好きなんですよね。
何が違うのかと言われるとよくわからないのですが、温かみがあって柔らかい感じ。
「根アカ」(←死語)なヴァイオリニストのイメージです。
ほんわかと人懐こく、聴いていると眠くなってくるほどですが、それほど美しい演奏ってことで。

 ソナタ ニ長調 作品2−1より第3楽章 アッフェトゥオーソ (美しすぎて眠くなる・・・)
 


 ソナタ ロ短調 作品2−4より第3楽章 アレグロ (歌心いっぱいの流れるようなアレグロ楽章)
 

(2021.05.30.)


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