タルティーニ/悪魔のトリル〜無伴奏ヴァイオリン作品集
(アンドルー・マンゼ:ヴァイオリン 1997録音)
Amazon.co.jp : Tartini: The Devil's Sonata / Andrew Manze
クラシック一発屋伝説!
クラシックの世界にも一発屋はたくさんいますよね。
「道化師」のレオンカヴァルロ、「カヴァレリア・ルスティカーナ」のマスカーニ(ヴェリズモ・オペラ一発屋コンビとして有名)、
「カノン」のパッヘルベル、「乙女の祈り」のバダジェフスカ、「ジゼル」のアダン、「カルミナ・ブラーナ」のオルフ、「バレエ・メカニック」のアンタイルなど。
でも最近は自分も含めてマイナー・クラシック好きが増えたので、
たとえばデュカスを「『魔法使いの弟子』の一発屋」呼ばわりすると、「交響曲は?」「ピアノ・ソナタ名曲なのに!」などと言われたりします。
ましてやロドリーゴを「アランフェス協奏曲」の一発屋なんて言った日には、下手すると炎上する恐れが(←ここはアクセスが少ないので大丈夫)。
さて、後期イタリア・バロックの作曲家にしてヴァイオリンの名手、ジュセッペ・タルティーニ(1692〜1770)も一発屋。
「悪魔のトリル」
これ以外の作品、言えますか? 口ずさめますか? 私は無理です(というか「悪魔のトリル」も口ずさめない)。
実際には、130曲以上のヴァイオリン協奏曲、200曲以上のヴァイオリン・ソナタを書き、
演奏・作曲両面で数多くの弟子を育て、ヴァイオリン奏法を大きく発展させた、音楽史上の重要人物であるらしいのですが、
まだまだ研究が進んでいないところが大きいようです。
まあ、40年前にはヴィヴァルディも「四季」だけの一発屋と考えられていたことを思えば、
今後タルティーニ・ルネッサンスが訪れることもあるの・・・・・・・・・か????
タルティーニは、青年時代は法律を学び、フェンシングの名手であったとか。
1710年にある貴族の愛人と駆け落ちし結婚したところ、その貴族がタルティーニを誘拐罪で訴えたので、やむなく修道院に入って訴追を逃れました。
暇だったので修道院ではじめて本格的にヴァイオリンを練習、気がついたら名手になっていたという、マンガのようなお話。
でも1716年に名手ヴェラチーニの演奏を聴いて大ショック、「わしゃまだまだまだまだぜよ!」とさらに練習に励んだそうです、えらいですね。
しかも聖職者としてもパドヴァの聖アントニオ聖堂に長年奉職したといいますから、実はとってもまじめな人だったのでしょう。
ヴァイオリン・ソナタ「悪魔のトリル」は、
夢に出てきた悪魔が弾いた音楽をそのまま楽譜に書き記した、という逸話が有名ですが、これはどうやら後世の創作。
そもそもこの曲はタルティーニの死後30年経ってから遺作として出版されたもので、出版社が話題作りのために作った逸話ではないかと。
しかし第3楽章では当時としては極めて斬新な重音のトリルが頻出し、まさに悪魔的な雰囲気をかもし出します。
もとはヴァイオリンと通奏低音(チェンバロなど)のためのソナタですが、アンドルー・マンゼは、この曲を無伴奏ヴァイオリンで演奏してます。
よっぽど友達いないのかな? 伴奏者を雇うお金がないのかな?(←違う)
「悪魔のトリル」第3楽章
マンゼはライナーノートで、
「私のヴァイオリン・ソナタは習慣上通奏低音部を伴っています。しかし私は低音部なしで演奏します。それが私の真に意図するところなのです」
というタルティーニの書簡を引用しています。
ヴァイオリンはそもそも悪魔的なところがある楽器ですが、無伴奏だと悪魔度はさらに高まるようです。
「悪魔のトリル」が登場する第3楽章は、自由な装飾音符もたくさん加え、鬼気迫る雰囲気。
このCDは、そのほかの作品もすべて無伴奏ヴァイオリンで演奏しちゃった、きわめて挑戦的なタルティーニ作品集。
「悪魔のトリル」のほかも、意外にと言ってはなんですが、面白い曲ぞろい。
ヴァイオリン一丁のみですけど、大きなアゴーギク、反復時の思い切った装飾などマンゼさんかなり「盛って」まして、
変幻自在・天衣無縫・元気溌剌・大胆不敵、ヴァイオリン好きには非常に面白く聴けます。
ソナタ イ短調 第4楽章 ジーグ
(2015.04.18.)
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