シルヴェストロフ/交響曲第5番・第4番
(ユカ・ペッカ・サラステ指揮 ラハティ交響楽団)




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ヴァレンティン・シルヴェストロフ Valentin Silvestorv (1937〜)/交響曲第5番(1980〜82)。

40分を超える、単一楽章の交響曲。
最初こそ不穏な感じをはらむものの、4分を過ぎるくらいから透明で澄んだメロディが聴こえてきます。
夢見るような響きの流れにさまざまなものが浮かんでは沈んでゆく起伏のなかに、
子どもの頃に住んでいた家とか(今はもうない)、通った学校とか(今はもうない)、遊んだ公園とか(今はもうない)が思い出され、
懐かしいような切ないようなもどかしいような感情に、心が震えます。

印象としては、マーラー「アダージェット」とラフマニノフ「交響曲第2番・第3楽章」を足しあわせて、
メシアン「愛と眠りの園」でコーティングしたモノをとろ火で煮込んで、R・シュトラウス「メタモルフォーゼン」風味のタレをかけたみたいです。

 

渺々たる記憶の海を、漂い・たゆたいながら、静かにおだやかに流れる音楽。
あなたの「ノスタルジー中枢」をやさしく甘噛みしてくるセンシティヴな響きに身を沈め、心を浸しましょう。

映画の回想シーン(それもスローモーションの)に当てたらぴったり、みたいな雰囲気が延々と続くのですが、
注意深く臭みを除去しながら綺麗に「情」を摘出し拡大し、妖しくも心地良い時間を作り出します。

徹底的に後ろ向きの音楽であり、聴いて元気が出るとか、前に進む勇気が出るといった効果は期待できませんが、
柔かい繭の中で膝を抱えてやさしい眠りに落ちるような心地良さには抵抗しがたいものが。

同時収録の交響曲第4番(1976)も同じような雰囲気ですが、第5番よりはやや動的な部分が多いです。
交響曲第5番のプロトタイプ的作品で、演奏時間は25分。
徐々に変容してゆく音の姿や表情のなかに、色彩豊かな響きの幻想を辿りましょう。

 

(2018.03.24.)


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