ヴァレンティン・シルヴェストロフ/記憶の瞬間(Moments of Memory)U
(イリーナ・スタロドウブ:ピアノ ドミトリー・ヤブロンスキー指揮 キーウ・ヴィルトゥオージ 2016録音)



Tower : Moments of Memory U

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現代ウクライナを代表する作曲家 ヴァレンティン・シルヴェストロフ(1937〜)は、
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻後もしばらくは首都キーウにとどまっていましたが、娘と孫娘に懇願されて3月9日にベルリンに避難したそうです。
でもそのことについて自分自身に怒っているんだとか。
84歳だし避難はやむを得ないと思いますが、祖国のために戦いたい気持ちは年齢じゃないんでしょうね。
それにしてもこの歳になって自らの意思に反して、住み慣れた家どころか祖国を離れなくてはいけないとは・・・心中お察しします。

シルヴェストロフとウクライナに思いをはせながら、本日聴いておりますのは。

 記憶の瞬間 U (Moments of Memory U)

ピアノと弦楽合奏のための作品を集めたCDであり、夢見るような音世界が繰り広げられます。
幸福な思い出をいつくしむピアノ、それを包み込むような弦の響き。

 ウエディング・ワルツ (平穏な中に一抹の翳りが・・・)
 

やさしく暖かいシルヴェストロフの音楽ですが、今日はひときわ寂寥感が身に沁みます。
これらの音楽を素直に楽しめる日は戻って来るのでしょうか。

 朝のセレナード
 

しっとりロマンティックな「夕べのセレナード」も、今日は葬送行進曲のように聴こえてしまいます。

 夕べのセレナード
 

シルヴェストロフの代表作で、亡き妻に捧げられた「使者ー1996」も収められています。
モーツァルト風の旋律が浮かんでは流れ去ってゆく、一聴シンプルでわかりやすい曲です。
前衛的ではありませんが、それでいて古臭くもなく、天国的で官能的な落日のファンタジーに酔いしれる9分30秒。
現実の音楽というよりは、うすい靄のかかった夢の中で儚い残響を聴いているようです。

 使者ー1996(ラリッサ・ボンダレンコに捧ぐ) 
 

アルバムタイトルである「記憶の瞬間U(Moments of Memory U)」は、6曲からなる組曲。
どの曲にも胸を締め付けるような郷愁がたっぷり詰め込まれています。

 記憶の瞬間U(Moments of Memory U) 第1曲 幼いころへのセレナード
 

ピアニストのイリーナ・スタロドウブはウクライナ人で、Facebookなどで調べると、2022年4月5日現在まだウクライナにとどまっているようです。
どうかご無事で・・・と祈らずにいられません。
弦楽合奏団キーウ・ヴィルトゥオージも名前からしてウクライナ人が主体でしょう。

指揮のドミトリ・ヤブロンスキーはロシア人。
ロシア・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者でもあります。
このコンビ日本とは縁が深く、ナクソスの「日本作曲家撰修」に伊福部昭、早坂文雄、安倍幸明、大澤壽人、深井史郎などを録音しています。
全く親しみのないであろう日本の現代音楽できちんとレベルの高い演奏を聴かせてくれ、「さすが一流のプロだ」と感じ入ったものでした。
現在のところヤブロンスキー氏がウクライナ侵攻に対してどういう態度をとっているのかは不明でした。

 記憶の瞬間U(Moments of Memory U) 第4曲 秋のセレナード
 

1日も早く平和が訪れますように・・・。

(2022.04.06.)


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