Paganini for Two
(ギル・シャハム:ヴァイオリン イェラン・セルシェル:ギター 1993年)



Amazon.co.jp : パガニーニ・フォー・トゥー ヴァイオリンとギターのための作品集

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前回、前々回と、ツェムリンスキー「抒情交響曲」シマノフスキ「交響曲第3番・夜の歌」という、濃厚で高粘度で重量級の曲をご紹介したので、ここらでさらりと軽い音楽を。


 Paganini for Two  パガニーニ:ヴァイオリンとギターのための二重奏曲集

ニコロ・パガニーニ(1782〜1840)といえば、言わずと知れたヴァイオリンの鬼才。
テクニックと引き換えに悪魔に魂を売ったとも噂され、死神のような風貌、鬼神のごとき演奏で絶大な人気と知名度を誇りました。
究極至高のヴァイオリニストであり、元祖ヴィジュアル系ミュージシャンであり、カリスマ的アイドルであり、天才的作曲家でありました。
シューベルトはパガニーニのチケットを買うために家財道具を売り払い、
リストはパガニーニを聴いて「俺はピアノのパガニーニになってやるぜ!」と天に誓い、
ショパンは若いころワルシャワでパガニーニを聴いた感動のあまり「パガニーニの思い出」という曲を書きました。

 映画「パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト」より
 

いっぽうでパガニーニは、ヴァイオリンとギターのための二重奏曲や、ギター独奏曲をたくさん書いています(ヴァイオリンとピアノのための曲はほとんど書いていませんが)。
二重奏曲では技巧は強調されず、二つの楽器の優しい親密な対話が繰り広げられます。

 カンタービレ
 

10代からヴァイオリンの名手として知られていたパガニーニですが、1801年(19歳)から4年間、突如表舞台から姿を消します。
この間、トスカーナの古城に住むディダと呼ばれる若い富裕な未亡人と静かな同棲生活を送っていたそうです(表向きは庭番として!)。
この女性がギターの愛好者でした。
彼女と一緒に演奏するために作られたのが、これらの作品というわけ。
パガニーニ自身、少年期からギターやマンドリンにも親しんでおり、ギターのための作曲はお手のものだったようです。

なんかもう、愛の生活をそのまま音楽にしたような代物です。
音楽史上最も幸福な音楽と言ってもいいんじゃないでしょうか、コノヤロー!

 協奏風ソナタ 第1楽章
 

超絶技巧に走っていないぶん、パガニーニの趣味の良いメロディ・センスがストレートに味わえます。
じつはパガニーニのヴァイオリンとギターのための作品を全部集めたらCD9枚にもなるそうです。
二人で演奏するの、どんだけ楽しかったんだよって言いたくなります。
このCDは、名曲をチョイスして1枚にまとめてくれています。
演奏はギル・シャハムイェラン・セルシェル、どちらも超一流。
ヴァイオリンはイタリアの陽光のようなカンタービレで伸びやかに歌い、ギターは控えめながら余韻のある響きでセンス良く相方をつとめます。

 ソナタ作品3−1 第1楽章
 

素晴らしいアルバムですが、ただ一つの不満は、私の大好きな曲である「ソナタ作品2の1」が収録されていないこと。
この曲が入っていたら言うことなかったんですが。

 ソナタ作品2−1
 

ディダとの恋愛は4年ほどで終わり、その後パガニーニは悪魔に魂を売って(?)ヴァイオリンの魔神となり、欧州の音楽界を征服してゆくことになります。

(2017.10.28.)


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