森見登美彦/四畳半神話大系
(太田出版 2005年)
<ストーリー>
「今やこんなことになっている私だが、誕生以来こんな有様だったわけではないということをまず申し上げたい」
「私」は京都の大学の三回生。 所属サークルを追われるように去り、悶々とした毎日を送っている。
・・・そもそもこのサークルを選んだのが間違いだったのだ。
別のサークルに入っていれば、疫病神・小津と知り合うこともなく、
今頃は幻の至宝「薔薇色のキャンパス・ライフ」を満喫していたに違いないのだ・・・。
四畳半神話大系
「太陽の塔」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞した、森見登美彦氏の第2作。
今回も京都の大学生が主人公で、前作とはゆるやかにリンクしています(「猫ラーメン」とか「下鴨幽水荘」とか)。
「四畳半パラレルワールドSFアドヴェンチャー」とでもいうべき(べつに言わんでも良いが)非常に凝った構成です。
第1章で主人公は入学時に映画サークルに入りますが、第2章では入学時に「師匠」なる謎の人物に弟子入りします。
第3章ではソフトボールサークルに入りと、それぞれ違う選択をして3年間を過ごすのですが、
結局行き着くところはおんなじだったりします。
最後の第4章で物語は俄然SF色を強め、ハインラインの名作短編「歪んだ家」のような世界が、おんぼろ四畳半を舞台に展開され、
前章までの伏線を適当に回収したりほっぽり出したりして、ほのぼのした大団円を迎えます。
よくもまあこんなお馬鹿な話を思いつくもんです。
主人公と悪友・小津(どのサークルに入っても結局知り合う運命!)の、スカポンタンで陰湿な小悪人ぶり、最高です。
いいですねえ、この二人、楽しそうで。 でもあんまりお近づきにはなりたくない。
ほかにも、はるかなる過去から下鴨幽水荘の2階に生息している長老大学生・別名「師匠」や、
ハンサムでモテモテなのに危ない趣味を持つ男・城ケ崎先輩、
酔うと人の顔を舐める癖のある美人歯科衛生士・羽貫さん(歯抜き?)など、すっとぼけた登場人物が山盛りです。
なかでも、熊のぬいぐるみに「ふわふわ戦隊モチグマン」と名づけ、蛾を見ると「ぎょえええええ」と絶叫するわりに
主人公たちの変人振りには眉ひとつ動かさないクールな(?)女子大生・明石さんが、まともそうに見えて一番異彩を放っていたりします。
森見氏の文章は、相変わらず自虐的な笑いが冴えまくっています。
読んでいると情けなくて涙が出そうになります(褒めてます)。
(06.3.16.)
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