森見登美彦・編/奇想と微笑・太宰治傑作選
(光文社文庫 2009年)




Amazon.co.jp : 奇想と微笑―太宰治傑作選 (光文社文庫)



森見登美彦氏・変、じゃなかった編による、太宰治のアンソロジーです。
まあ普通のチョイスになるはずないわな、とは思っておりました。

 それにしても、なんじゃこりゃ〜、であります。

「ヘンテコであること」「愉快であること」を基準に選ばれた19編。
太宰治で笑いころげる日がこようとは、神ならぬ身のワタクシ、知るよしもありませんでした。

なんと言っても「カチカチ山」が最高。
美少女ウサギに恋焦がれる、むくつけき中年タヌキ
「傍へ寄って来ちゃ駄目だっていったら。くさいじゃないの。もっとあっちへ離れてよ」
と言われても周りをうろうろ。
ウサギに食べ物をくれたことがあるおばあさんをタヌキがやっつっけたことで、
「あなたは私の敵よ」と宣告され、昔話どおりの復讐劇が幕を開けます。
「処女の怒りは辛辣である。殊にも醜悪な魯鈍なものに対しては容赦が無い」 ときたもんだ
これホントに昭和20年の作品ですか〜?
今読んでも全然古臭くないどころか、滅茶苦茶面白いじゃないですか。
じつは森見登美彦氏が書いてるんじゃないでしょうね。
どことなく作風も似ているような・・・。

しかし美少女に 「くさいじゃないの」 なんて言われたら、
私なら全速力で家に帰って肌がむけるまで全身タワシで洗い、死ぬまで歯を磨き続けることでしょう。
そこへいくと全く反省しないこのタヌキは、ある意味偉いです。
だから殺されちゃうんですけどね。

犬にまつわるエッセイ「畜犬談」は、「私は、犬については自信がある。いつの日か、必ず喰いつかれるであろうという自信である」
と、自虐ネタで軽く笑わせて、最後はちょっといい話にまとめます。
「服装に就いて」も、さりげない着こなしのムツカシサをおもしろおかしく描いてちょっぴり自虐

自虐も「人間失格」までいくと怖いですが、本書に収められたエッセイではハイレベルな「笑える自虐」が楽しめます。

あと、百円紙幣を主人公にした「貨幣」(ええハナシや〜)、森鴎外が訳した海外短編を勝手に翻案し、まったく新しい作品にしてしまった「女の決闘」
森見登美彦氏の作品に出てきても不思議はないような変人・怪人がつぎつぎ登場する「ロマネスク」などは、スンバラシイ傑作短編小説。

井原西鶴の作品をベースにした三部作「貧の意地」「破産」「粋人」は、思わず口ずさみたくなるようなリズミカルな名文で、
ダメでだらしない人々のダメダメぶりを鬼気迫るまでに歌い上げ、感動の境地に誘います。 
あふれるダメ人間への愛。
ビバ・ダメダメ!!

最後にかの「走れメロス」が収められています。
この作品に関しては以前、亜原屋太郎クンが書いた読書感想文をアップさせていただきましたので、よろしければそちらをご参照のほど。

(09.12.18.)


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