マーガレット・ミラー/雪の墓標
Margaret Millar/Vanish in an Instant(1952)
(中川美帆子・訳 論創海外ミステリ 2015)



Amazon.co.jp : 雪の墓標 (論創海外ミステリ 155)


クリスマスの夜、ポール・バークレー医師の奔放な若妻ヴァージニアが、殺人容疑で勾留された。
被害者はヴァージニアとの不倫を噂されていた男で、すべての状況はヴァージニアが犯人であることを示していた。
ヴァージニアは、泥酔していて何も覚えていないと言うのみで、圧倒的に不利。
ところが若手弁護士ミーチャムが彼女の弁護を引き受けたところ、自分が犯人だという若い男が突然名乗り出てくる・・・。

マーガレット・ミラー中期の傑作!


昨年はマーガレット・ミラー没後20年、今年は生誕100年ということで、巷はちょっとした「ミラー祭り」なのでしょうか?
「まるで天使のような」(略して「まる天」)が新訳で出たと思ったら、未訳長編がまた出版されました (といってもまだ多くの作品が絶版なんですけどね)。

 「雪の墓標」 (Vanish in an Instant, 1952)

傑作でした。
昨年出版された「悪意の糸」よりかなり上出来。

見事に彫琢された登場人物たち。
どの人物もなんらかの欠落と哀しみを抱えながらもがいています。
単純な善人もいなければ、わかりやすい悪人もいません。
ストーリーに直接関係ない脇役まで、心を持った、血の通った人間として描きだす筆力の凄味。

しかも読みやすく、味わい深い文章。
ミラーの文体は今回も格調高いですね〜。
翻訳も流れるように自然です。
全編に漂う、荒涼として乾いた抒情の魅力!

そして練りに練られたプロット。
「何がどうなっているの?」な錯綜した状況が、終盤、ある登場人物のひとことで、さっと光がさすようにすべて明らかになる鮮やかさ。
マーガレット・ミラーらしい衝撃の手際、みごとな一撃です。

クリスマスを舞台にしたこの作品、つまるところ「愛」の物語なのでした。
歪んだ愛、哀しい愛、真っ直ぐな愛、様々な愛が絡み合い、それぞれの結末を迎えます。
文学としてもミステリとしても一級品、最上の「ミラー節」を堪能いたしました。
ミラーの作品としては珍しく、ほのかな希望を感じさせる終わり方も素敵です。

解説も充実していて、とくにミラーとサマセット・モームの関連には、思わず目からうろこ。
そうかそれで私はミラーもモームも好きなのか、と納得することしきりでした。

(2015.10.28.)

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