マーガレット・ミラー/まるで天使のような
Margaret Millar/How Like an Angel(1962)
(黒原敏行・訳 創元推理文庫 2015)




Amazon.co.jp : まるで天使のような (創元推理文庫)

カジノで負け、山中に放り出されたギャンブル中毒の探偵ジョー・クインは、<塔>と呼ばれるカルト宗教の施設にたどりついた。
そこで彼はひとりの修道女に、パトリック・オゴーマンという人物を探すことを依頼される。
調べると彼は5年前、増水した川に車ごと転落、遺体は見つからず、死亡したことになっていた。
彼の死の真相は? 俗世と縁を切った修道女が彼を探す理由は?
そしてクインの目前で新たな死が!
私立探偵小説と心理ミステリーをかつてない手法で繋ぎ、著者の最高傑作とも称される名品が新訳で復活。



マーガレット・ミラー生誕100周年を記念しての新訳!
読んで驚けの大傑作です!


昨年マーガレット・ミラー(1915〜94)没後20年を記念して(?)、
16年ぶりに彼女の未訳長編「悪意の糸」が邦訳されたのは
全国津々浦々のマーガレット・ミラー・ファン(何人いるんだ?)の記憶に新しいところ。

 そして今年は生誕100年!

代表作のひとつ、「まるで天使のような」(1962)が新訳で刊行されました。

じつは新訳刊行を知ったとき、嬉しくなって旧訳のハヤカワ文庫版を再読してしまいました。
なので新訳もすぐ買ったものの「読んだばっかり感」が半端なかったため、今まで積読に。
何のための再読だよ・・・。

やっと昨日、「和楽器バンド」のライヴのため大阪に行く新幹線で読み始めました。
しかしさすがはマーガレット・ミラーの傑作、つい読みふけってしまい、危うく乗り過ごすところ。

 恐るべし「まる天」!(←自分がうっかりなだけだろ)

まあそんなわけで(どんなわけだ)、とても面白いです。
1962年の作品なので、現代人にはそれほどの衝撃はないかもしれませんが、当時はかなりの破壊力だったはず。
カルト宗教団体の描写も迫力あります。(「オウム真理教」を知ってしまった私達にはやや牧歌的にも思えますが)
また「私立探偵が失踪人を探す」という王道パターンに取り組んだ正統派ハードボイルドでもあり、
ウィットに富んだ軽妙な会話は手練れの技を感じます。
さすがはロス・マクドナルドの奥様。
サイコ・ミステリーの先駆的作品にして、ハードボイルドの名品にして、衝撃の結末が印象的な傑作です。

そう、マーガレット・ミラーの作品はどれも結末が凄いんですよね。
ただし「どんでん返し」とは違い、「一体なにがどうなってるの?」状態の謎また謎なプロットが、最後の数ページでずどーんと着地する快感。
終わってみれば、「確かにこれしかなかったよ!」と深く納得させられます。
しかしそれは「大団円」とか「綺麗にまとめる」のとは正反対で、いわば「崩壊」「破滅」「地獄落ち」
唖然呆然とする登場人物と読者を突き放し、高笑いしながらサッと幕を下ろすような終わり方。
この「突き放され感」、癖になります。

できればあまり予備知識なく読んだほうが楽しめるはず。
新訳の文章もスムーズで読みやすいです。

そういえば今月は論創社からも未訳長編「雪の墓標」が出たそうで(買わなきゃ)、ちょっとした「ミラー祭り」の様相。
この勢いで「鉄の門」も復刊されないかな。(→2020年に新訳が出ました)


ちなみに「和楽器バンド」のライヴはサイコーに素晴らしかったのでした。

(2015。10.04.)


その他の「マーガレット・ミラー」の記事
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ミラー(マーガレット)/「ミランダ殺し」(創元推理文庫)
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