マーガレット・ミラー/殺す風(1957)
(創元推理文庫 1995年)



Amazon.co.jp : 殺す風


このあいだ、ミラーの「ミランダ殺し」をご紹介したとき、いい機会なので、以前読んだ彼女の作品を読み返してみました。
狂気や悪へと追いやられてゆく人間の姿を、優しさと悲しみを込めて描き出す物語の匠、マーガレット・ミラー
なかでもこの「殺す風」は、ホントに傑作じゃんこれ、としみじみ感動したので、めでたく「お気に入り本箱」にしまいこむことに決定。

<ストーリー>
 四月の土曜日の夜、ロン・ギャラウェイは、妻と幼い息子二人におやすみを言ったあと、友人達と魚釣りをするため別荘へと車で出発します。
 ところがロンはいつまでたっても別荘に現れません。
 友人達はあちこち連絡をとりますが、翌日になってもロンの行方はようとして知れず。
 やがて、ロンは親友ハリーの妻と浮気をしていたことが明らかになります。
 しかも彼女がロンの子を妊娠してしまい、ロンは悩んでいたとも。
 やがてロンから妻に、自殺をほのめかす手紙が届きます・・・。


悲しい愛の物語です。
ロンが失踪して、一気に秘密が暴きだされます。
愛妻セルマがロンの子供を宿したと知って苦悩するハリー。
しかしハリーの不妊症にずっと悩んできたセルマは、
やっと念願の子供が産めるとばかり、晴れ晴れとハリーに別れを宣告します。
ロンの妻エスターも動転しますが、彼女自身、前の妻からロンを略奪して結婚した負い目があります。
そしてそんな人々の間をおろおろと走り回る、共通の友人ラルフは、この物語の狂言回し。

なんだかドロドロの愛憎ドラマのようですが、ミラーの筆はしごく上品。
突然の修羅場に突き落とされた普通の人々の心理を、細やかに自然に描き出します。
幸か不幸かこういう状況には縁のない私が言うのもなんですが、けっこうリアリティあるんじゃないかと。 

 さて、ロンがいなくなっても、皆は生きてゆかねばならないわけで、やがて事件はそれなりに収束、日常が戻ってきます。
 しかし最後の章で、ふとした偶然から巧妙に隠されたもうひとつのストーリーが浮かび上がり、 物語は真の終結を迎えます。
 ラストの余韻の見事さは、これまでに読んだミステリの中でも屈指です。

精緻なプロットのうえに一部のすきもなく組み立てられた物語です。
読み終えて、もう一度はじめからページをめくれば、
作者が巧妙に張り巡らせた伏線の妙に、ほとんど悶絶しそうになります。
地味なストーリーなので、万人受けはしないかも知れませんが、実に私好みの一編としてご紹介させていただきます。

(03.2.13.記)

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